第8話

 ぱさり、と地面に落ちたドレスを那由多は抱きかかえた。

 土御門は何かを耐える様に唇を強く結んでいる。

 少女は成仏したのだ。

 こんな素朴な願いを未練として、少女はこの世に留まっていたのだ。

 土御門たちは、最初から少女が悪霊だと気が付いていた。

 体温を感じず、紫がかった肌をしている人間が生きているはずがない。

 だが、他の悪霊の様に暴走していない悪霊を銃で浄化するにはあまりにも忍びなかったのだ。

「帰りましょう。

 ……私たちが悲しんでいることを知ったら、あの子は自分を悪い子だと思ってしまうわ」

「分かってる」

 土御門は目を擦ると、コンビニを出る。

 携帯には、大山からの着信があった。

『ゾンビどもが街から消滅したそうだ!やったんだな!』

 はしゃぐ大山に疲れているからと断ると、土御門は電話を切った。

 二人は無言で誰もいない街を歩く。

「なぁ、那由多」

「何?」

「クリスマスケーキ、一緒に食べようぜ。

 それもうんと大きい奴」

「そうね、今日は楽しいクリスマスだもの」

 一人の少女の冥福を祈り、二人は帰路に就く、

 死のクリスマスは、こうして幕を閉じたのであった。

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クリスマス・オブ・ザ・デッド 渡貫真 @watanuki123

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