第7話

 少女はクリスマスが嫌いだった。

 少女の家に一度もサンタクロースが訪れなかったからである。

 クリスマスは、サンタクロースが良い子にプレゼントを渡す日である。つまり、サンタクロースからプレゼントをもらえない自分は悪い子なのだろう。

 両親は自分のせいで生活が苦しいのだという。

 両親の暮らしを苦しくしている自分がプレゼントをもらえるはずがないのに、少女はプレゼントを期待しては、クリスマスの朝に枕もとを見て悲しい気持ちになる。

 少女は悲しい気持ちになるクリスマスが嫌いである、そして、クリスマスプレゼントをもらえない自分も嫌いだった。

 今年のクリスマスは、少女にとってより一層厳しいものとなる。

 何日もご飯を食べさせてもらえない中、空腹を訴えてしまった少女はベランダに追い出された。

 少女にかけるお金がもったいないという理由で服は半袖しかなかった。少女は雪の積もるベランダで、一人寒さに凍えながら意識を失った。

 今年はクリスマスまでご飯を我慢できたんだけどな、と、サンタクロースが来てくれなかったことを悲しみながら。


 次に目が覚めた時、彼女は自身の体がどこも痛まないことに驚いた。

 父に殴打されたはずの腹部も痛んでいないし、空腹も感じない。ふと、少女はベランダから飛び降りてここを抜け出せるのではないかと言う気持ちに襲われた。それほどの全能感が少女の胸の底から湧いてきているのである。

 少女は、その全能感に従ってベランダから飛び降りた。

 少女は地上に着地すると、嬉しさのあまり駆け出す。空腹や体の痛みに悩まされない時間はいつぶりだろう!少女は雪化粧を纏った街の中を走り抜ける。

 暫く街を走り回るうちに少女は奇妙なことに気が付いた。

 街が静かすぎるのだ。

 今日は楽しいクリスマスの日。周囲は賑やかな音に溢れているはずなのだ。

 訝しんでいる少女の耳に、突然、猫の悲鳴が飛び込んでくる。

 少女はその悲鳴の方に駆け出した。


 そこで出会った二人のサンタクロースに、少女は一緒に空を飛ぶ体験をさせてもらった。

 実際には住宅街の屋上を高速で駆け抜けているだけなのだが、少女にとっては同じようなものだった。

 サンタクロースは、今の街には悪い人があふれていて、それを懲らしめるために人前に姿を見せているのだという。彼女はそう解釈した。

 後で迎えに来るからと言って、サンタクロースは少女をコンビニの中に置いて行った。

 しばらく時間がたち、遠くから響く轟音に少女が不安を感じ始めた頃、サンタクロースは少女の元に戻って来た。

 男のサンタクロースは大人しく待っていた少女に微笑みかける。

「偉いじゃないか。ちゃんと待っていてくれるなんて。

 そんな偉い子にはプレゼントをあげないとな」

 少女は驚いた。

 偉い子、そんなことを言われたのは人生で初めての経験だった。

「プレゼントには何が欲しいかしら?」

 女のサンタクロースが少女に尋ねる。

 少女は、ためらいながらも、絵本で見たシンデレラのようなドレスを着てみたいと、つたない言葉で伝える。

 女のサンタクロースが頷いて手を振ると、そこには豪華なドレスが現れた。

 それからは、ドキドキする気持ちを抑えながら、女のサンタクロースに手伝ってもらい、ドレスに着替える。

 鏡で見た自分の姿は、やせ細って皮膚も青白かったが、それも少女は自分がお姫様になったようで嬉しかった。

「にあってる?」

 少女は2人のサンタクロースに尋ねる。

「あぁ、似合ってるさ」

「お姫様みたいよ」

 少女は嬉しくって飛び跳ねたい気分だったが、お姫様はそんなことしないよねと思い、ぐっと堪える。

 そして、少女はずっと聞きたかったことをサンタクロースに尋ねる。

「わたし、いいこになれた?」

「「もちろん!」」

 二人の力強い頷きに、少女は満面の笑みを浮かべた。


 そして少女は、砂の様になって消えた。

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