第2話

 上野のアメ横を肩を並べて行ったり来たりする。昼間っから呑みたい。

「お兄さんどうぞー。飲み放題ですよー。」

片言の日本語なのか、洗脳の呪文なのか声がかかる。

忠治はうるさそうな顔をして

「声をかけられなきゃメニューみたいんだけどなぁ。」

と省吾にだけ聞こえる声で悪態をつく。

「人見知りがでちゃうからな。」

「信用ならない。」

あーだこーだいいながら、三十分近く歩いたか。

「もういいよ。ここ入ろう。」

省吾が痺れを切らしてモツ焼き屋を指す。

「悪くないねぇ、二人入れますか?」

優柔不断なのか決断力があるのか忠治は答えながらすでに入店していた。

「とりあえずビールでいい?最初だけでも。」

「うん。いいよー。」


 ひとしきり飲み食いして、焼酎のロックを飲んでいるあたりに忠治が語りだした。

「俺達って人見知りだよなー。」

「うん、そうね。」

「でさ、地元の兄貴分の人に相談したのよ。女の子とか、まぁ男でもいいんだけど仲良くなるにはどうしたらいいですかって。」

「おー。なるほどな。」

「そしたら兄貴がとりあえず褒めとけって、」

「とりあえずなー。」

「褒めるのに金かからないからって。」

「金なぁ。」

省吾はグラスの四分の一位になった焼酎を一気に飲み干し忠治を見つめ、

「前に俺の知り合いのベトナムの人が似たようなこといってたよ。」

「へー。ベトナム人の知り合いいるんだ。」

「うん、人を褒めても金もらえないって、金もらえないなら褒めても無駄だって。」

「金もらえないかぁ。」

忠治もグラスの底のもう、酒なんだか融けた氷の水のかわからないものを飲み干し、

「金なぁ。金なぁ。とりあえず、あと一杯飲みませんか?。」

と省吾にメニューをうながす。

「あっ、うんじゃあ芋のロックかな。」

「えー、芋かぁ。あんまりなぁ。まぁいいか。」

「すいませーん。芋焼酎のロック二つ。お願いします。空いたグラスもいいですか?」

若い金髪のお兄ちゃんの店員にグラスを渡す忠治。

「とにかくさぁ。」

「とにかく?」

省吾はもう追加しないであろうメニューを見ながら、

「褒められたいよな。」

と言う。忠治は省吾の目線を追いながら、

「褒められたい。俺を褒めて欲しい。」

「俺は褒められて伸びるタイプだ。」

「女の子に褒められるような店に行ったら金かかるなぁ。」

「褒められるには金かかる。」

芋焼酎はまだこない。

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忠治と省吾 @syougo-tyuuzi

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