一通目


たぶん幸せな夢を見ていた。


昔こんなことがあった。

僕はあるとき肩を揺さぶられて起こされた。

時刻は深夜の2時か3時くらいだったと思う。

このとき僕は小学3年生で、一人部屋のベッドでスヤスヤと眠りについていた。

はずだったのだが、目を開けると両親が僕の顔を覗き込んでいて、その表情は浮かなかった。

「大丈夫か?」

父がおそらく僕にそう言った。

「何か怖い夢でも見たの?」

続いて母がそう言った。

僕は状況が飲み込めず、黙って二人の顔をぼんやり眺めていると、やがて自分の体が震えていることに気がつき、しゃくり上げている自身の声をきいた。

「どんな夢だったの?」

また母の声がした。

きかれて思い出そうとしたが思い出せない。

どんな夢?

たぶん幸せな夢。

しかしこのときの自分の反応は逆だった。

怖いものにでも追いかけられたか捕まったかして、恐怖に身をひきつらせ、許しを乞うているようで、幸福とはかけ離れていた。

僕はいったいどんな夢を見ていたのだろう。

今となってはもう思い出せない。

ただ、その夢は決して怖いものではなかった。


この反応の落差はなんだったのだろう。



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