月夜の嫉妬竹

 四人の少年が、校舎の東側を歩く。

 先頭に立つ一人は、不機嫌そうな和服姿の美少年。

 それに続く一人は、赤い頭巾を被ったニヤつく問題児。

 もう一人は、その問題児が逃げないように腕を抱きつつ、幸せそうに微笑む女装少年。

 そして、彼らから少し距離を取って歩く最後の一人が、ボロボロの服を着た貧相な見た目の少年。


 学校案内になど興味が無く、全く乗り気ではなかった赤ずきんだったが、白雪の一方的な行動でかぐやが苛立っているのを見て、だんだんと妙な優越感に浸り始めていた。


 白雪が、かぐやよりも自分を好いていることは明白である。

 それにかぐやは、白雪が男であることを知らない。

 白雪が、この国の王子であることを知らない。

 白雪が、もうすぐアリスによって殺されることを知らない。


 そう考えるだけで、なぜか愉快だった。



 鳥や獣の形をした石のオブジェが立ち並ぶ、日時計付近まで来ると、かぐやは足を止め、振り返った。

「この日時計の中心に立ってご覧」

 そう言って白雪を赤ずきんから引き剥がし、時計の針となる影を作るための柱の立つ、円状の盤面の中心へと誘う。

 この日時計の半円は時計の役割を果たし、もう半分は気温によって色の変わる石を使って作られた、温度計になっている。


 白雪が柱を背にするようにして立つと、かぐやは白雪の隣に立ち、顔を寄せ、オブジェの一つを指差した。

「あの鳥の像の真後ろに、木が生えているだろう。あの木の一番太い枝を目で伝ってご覧」

 白雪が言われるがまま、だんだんと細くなる枝を目で伝っていくと、ちょうど先端部分が別の木の枝と重なり、大きなハート型になっているのがわかった。

 そのハート型の中では、学校の裏側にある湖の輝く水面と、青く澄んだ空が溶け合っていた。

「わあ、すごい…!すっごく綺麗なハート…!」

 感動した白雪が目を輝かせると、かぐやはほくそ笑み、さらに囁いた。

「そのまま視線を下に降ろしてご覧」

 白雪が言われた通りにすると、鳥と狼のオブジェのちょうど中間に辺りに、一輪の美しい花が目に飛び込んで来た。

 その花には、木々の隙間から零れた一筋の光が、まるでスポットライトのようにあたっており、花の美しさを一層際立たせていた。

 その美しさに、ハッと白雪が息を呑む。

 かぐやはしたり顔で、花よりも美しい白雪の横顔を眺めた。


 美しい景色に見惚れる二人の後ろで、再び興味を無くした赤ずきんが、このままこっそり逃げ出そうかと考えていると、背後からシンデレラが忍び寄り、そっと耳打ちした。

「おまえ…、なんで何にも言わねぇんだよ…?かぐやさんに白雪ちゃん盗られてもいいのかよ!?」

「は…?」

 訳が分からず振り向くと、シンデレラは真剣な表情で続けた。

「周りは『釣り合わない』だのごちゃごちゃ言ってるけどよ…、おれはおまえらのこと応援してんだぜ?」

 この貧相な少年も、自分と白雪が付き合っていると勘違いしていることに気が付いた赤ずきんは、ため息をついた。

「あのなぁ、おれたちは…」

 女装王子との交際を否定しようとしたその瞬間、前方で花に見惚れていた白雪が振り返り、赤ずきんを呼んだ。

「りんごほっぺくん!こっち来て!すっごく綺麗だから…!」

「花なんかに興味は無ぇよ!」

 すかさず赤ずきんが断るも、白雪は走り寄って腕を掴み、大好きな友達を強引に素敵な景色が見える場所へと引っ張って行った。

「…なるほど。奪われない自信があったってことね…!」

 遠ざかって行く仲睦まじい二人を見送りながら、そう呟いたシンデレラの視界に、鬼のような形相で恋敵を睨み付けるかぐやが入った。


 瞬間、全身から血の気が引くのが分かった。

 自分ではもう、あの嫉妬に狂った御曹司を止めることは出来ないと判断したシンデレラは、無力ながらも、静かに二人の幸せを願った。







 その夜。

 かぐやは独り、自宅の広い庭園を歩いた。

 美しい竹林の中、空高く登った月を見上げる。

 薄い雲を纏った優しい光を、虚ろな目に映す。


 かぐやは、自身の敗北を悟った。

 白雪が自分に一切興味が無く、赤ずきんに夢中であることが、嫌という程分かった。

 何より、そんな自分を嘲笑う下等な問題児の存在が許せなかった。

 なぜ美しい令嬢が、あんな男を好きになったのか、全く理解出来なかった。

 見た目も立ち居振る舞いも、どう考えても自分の方が優っている。

 自分は、金だって持っている。

 赤ずきんは、白雪に何をしたというのだろうか?

 何か裏があるに違いない…。


「欲しければ、奪えば良い」

 不意に闇の中で声がした。

 罪の無い月を睨み付けるかぐやの背後に、その男は現れた。

 かぐやが振り向くと、月よりも青白い肌をした不気味な男の微笑みが、目と鼻の先にあった。


 声を上げる暇も無く、かぐやは黒い男の影に飲み込まれた。

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