閑話 とある界隈


 ☆★☆★☆★




 「ダメです。いつも通りの返信でした」


 「むぅ」


 とある音楽会社の男二人がため息を吐きながら、残念そうにしていた。


 「もったいないですよね」


 「そうだなぁ。この二人をデビューさせたら間違いなく売れる。俺達の出世の為にも良い返事を貰いたいってのはもちろんある。でもそれ以上にこの二人をもっと色んな人に知ってもらいたいんだよ」


 男二人は携帯の動画サイトで新曲がアップされたばかりのルトゥールを見る。

 ルトゥールが有名になってから、何度か連絡はしてるが、色良い返事をもらえた事がない。


 「YeahTubeがわりと人気になってきましたけど、まだまだCDにも需要はあると思うんですよね」


 「だなぁ。デビューしたらもっと人気になるのは間違いないと思うんだが」


 「まだ学生みたいですからね。時間が取れないって毎回断れてます」


 「でも毎月動画は上げてるだろ? しかも全部二人でやってるそうじゃないか。こっちでサポートしたら更に質の良い歌が出来るんじゃないかって思ってるんだけどな」


 この二人の断り文句は毎回学生だから、そこまで時間を割けないという事だった。ルトゥールに目を付けてから三年以上が経つが、毎月新曲がアップされている。


 「新曲を毎月アップ出来るなら、時間が取れないって事はないと思うんですけどね」


 「自分達で自由にやりたいって事か? まあ、気持ちは分からなくもないが、せめてアップされてる曲をアルバムで出したりさせてくれないもんかな。それだけでも物凄いお金が入ってくるぞ」


 男二人は再度ため息。

 これからも継続して連絡はしていくつもりだが、いつか良い返事を貰える時はくるのか。


 目を付けてるのは自分達だけじゃないだろう。確実に売れると分かってる金の卵なのだ。どの会社も間違いなく交渉してるはず。


 もしデビューをするとなった時に自分達に声を掛けてもらう為に。男二人は知恵を出し合うのであった。



 ☆★☆★☆★



 「谷さんと中村さんですよね? 今、少しお時間よろしいですか?」


 「すみません、今から授業なので」


 「授業が終わってからでもお時間頂けませんか?」


 「すみません、用事があるので」


 「あ、ちょっ…はぁ…」


 「またダメでしたね」


 大学の近くで二人が来るのを待ってたスーツ姿の男女は残念そうに二人を見送る。


 「上からどんな条件でも良いからあの二人をスカウトして来いって言われてるんだけどな」


 「見るからに興味がなさそうでしたよね」


 とある芸能事務所で働いている二人は、上司から谷圭太と中村梓の二人をなんとしてでも引っ張って来いと言われていた。


 SNSに上がっていた一枚の写真が世間を賑わせてから随分経つ。どうやら盗撮された一枚だったみたいで、二人はかなり迷惑してるみたいだったが。


 「あの二人って高校生の時にもスカウトされて断ってますよね? 芸能界に興味がないんじゃないですか? あまりやる気の無い人を無理やり引っ張っても意味がないと思うのですが」


 「そうは言ってもな。あの顔とスタイルだぞ? 声を掛けないのはスカウトマンとして失格だろう。まあ、無理やり引っ張ってもロクな事にならないのは分かるが」


 あの二人についてはSNSで話題になる前から知っていた。2.3年前に東京で声を掛けた事があるからだ。あの時もその場で断られた。


 「あの容姿に現役東大生だぞ? 話題性は抜群じゃないか」


 「そうなんですよね。私達以外にも狙ってる事務所はありますし」


 二人は少し先の場所でさっき自分達がしたように声を掛けられている。見たら分かるようにライバルが多い。


 「どうしたもんかな」


 「せめて何か条件があれば分かりやすいんですけどね」


 少しまとまった時間をもらって話してみたい。そう思いながら、二人は上司に電話して今日もダメだった事を伝えるのであった。


 

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