閑話 曽川楓2
『そういえばこの前友達と旅行行ってきてさー。海が滅茶苦茶綺麗だったんだよね』
『人もそこまで多いって訳じゃなかったし、穴場みたいよね。また行きたいわ』
「やっぱりこれって、谷君と中村さんだよね…」
東京の一人暮らしをしてる家でルトゥールの雑談生配信を見てたら最近の話になって、二人が海に行ってた事を話している。
二人は場所の事を軽くぼかしながら喋ってるけど、一緒に行った僕には丸分かりだ。
エピソードとか与論島に行った時とそっくりだもん。
「二人は隠す気あるのかな…?」
普通の人なら軽くぼかす程度でいいかもしれないけど、一緒に行った僕や彩綾さん、宇良さんにもバレると思うんだけど。
「どうかしたの? あら? ルトゥールね」
「彩綾さんも知ってるんだ」
「そりゃ知ってるわよ。大学でもほとんどの人が知ってるんじゃないかしら? 歌が強烈すぎるのよ」
今日は家に彩綾さんが来てて、課題に集中していた。一段落したみたいで、僕が見てた携帯を覗き込む。
「結構見たりするの?」
「月一の新曲はチェックしてるわよ。大学でも毎回話題になるしね。生配信は時間がある時って感じかしら?」
彩綾さんと話しつつ、二人で生配信を見る。彩綾さんはまだ付き合いが浅いからか、生配信を見てても気付いた様子はない。
旅行のエピソードを聞いたら感付くかもしれないけどね。
「この二人の声を聞いてるだけで落ち着くのよね。だから立ち絵だけの生配信でもこんなに同接数があるんでしょうけど」
「確かにそうだね」
二人は軽く声を変えてるみたいだけど、それでも二人の話し声は落ち着く。まるで実家のような安心感があるんだ。実家が落ち着く環境なのかは人それぞれかもしれないけど。
僕は彩綾さんに谷君と中村さんがルトゥールなんじゃないかって言うのを迷ってる。
二人が隠してるなら言わない方が良いと思ってるんだけど、このエピソードを聞いて隠す気があるのか疑問に思ってきたんだ。
二人は友達にならバレても良いと思ってるのかもしれない。でもそれなら、二人はあっさりと話してくれるんじゃないかとも思うんだよね。
高校時代の友達とか、大学の友達とかは気付かないのかな? ある程度二人と接してたら、分かっちゃうような気もするんだけど。
「この二人が大学生っていうのが信じられないのよね。楓君はどう思う?」
「うーん…。僕は大学生なんじゃないかなって思ってるよ…」
そうとしか言えない。
だって僕は二人が谷君と中村さんだって、9割ぐらいの確率で思ってるから。一度そう思ってた見てみると、そうとしか考えられなくなっちゃったんだよね。
「でも高校生から毎月歌をあげ続けてるのよ? 流石に厳しいんじゃないかしら? 学生生活と並行して出来る作業量じゃないと思うのよ」
「それもそうだよね」
そう。1割ぐらい信じられないのは、果たしてこの作業をこなしながら東大に圧倒的な成績で現役合格出来るのかって事なんだ。
二人は学校でも特に忙しそうにはしてなかった。いくら二人が規格外だと言っても、ここまでの事をやるのは、ちょっと現実的じゃないんだよね。
「学生を卒業したら顔出し配信もするみたいだけど…。ね、楓君はルトゥールの二人はどんな人だと思う?」
「う、うーん…」
い、言いたい。物凄く言いたい
二人がルトゥールなんじゃないかって、物凄く言いたい。でも二人が秘密にしてるなら、言っちゃうのは良くないと思うし…。
でもなんか彩綾さんに隠し事をしてるみたいでちょっと申し訳なくも思っちゃって。
二人に一回聞いてみるべきかなぁ。
このまま言わなくてもそのうち彩綾さんは気付きそうではあるんだけど…。
でも二人が本気で隠そうとしてるなら聞かない方が…。でもでも本気で隠そうとしてるならこのエピソードも配信で言わないと思うし…。
う、うーん…。
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