第87話 母の問題


 ☆★☆★☆★


 「これは流石に由々しき事態ですよ」


 「な、なによ。まだ大丈夫でしょ」


 「いや、流石にそろそろ看過出来ないところまできてるよ。いくら温厚な俺でもそろそろ堪忍袋の緒が切れるってもんよ」


 「あ、あんたは一々大袈裟なのよ」


 とある日。家でアプリをして遊んでると、私には出来すぎた息子、圭太がいかにも怒ってますといった表情で詰め寄ってきた。


 原因は分かっている。分かってはいるけども認めたくない。認めてはならない。


 「流石にやばいって。本当にちゃんとやってるの?」


 「ちゃんとノルマはこなしてるわよ。中村さんと一緒にやってるわ」


 「じゃあ原因はこれだね」


 「うっ…」


 そう言ってゴミ箱を指す圭太。私もそうかなと思ってたので、そこからは完全に目を逸らす。


 「母さんもそろそろ40だよ? 色々気を使ってもらわないと」


 「あ、こら!」


 圭太はそう言って私のお腹をぐいっと掴む。


 「太ってるよ、母さん」


 「聞きたくないわ」


 ふいっと目を逸らす私を見て、圭太はそれはもう大きなため息を吐いた。




 仕事を辞めてからというもの、私には時間が有り余っていた。

 良く分からないけど、圭太がパソコンをぽちぽちしてるだけで、お金が稼げるらしい。


 未来の知識があるお陰だよなんて言ってたが、私はそれに甘えて怠惰な生活をしていた。最初は息子に養ってもらうのに、凄い抵抗があったが、どうやら未来では私はそろそろ死ぬらしい。


 圭太はそれを回避するために、会社を作ったりして私が働かなくてすむようにして、毎月多額な給料をくれる。

 慣れって怖いわよね。すっかり働かない生活に慣れてしまって、今ではずっとグータラしてる。


 もちろん、運動不足にならないように、週に4回は1時間程中村さんとウォーキングしてるし、お酒を飲み過ぎないように休肝日も作ってある。

 圭太が心配性なせいか、定期的に病院で診てもらったりもしてるし、今は健康そのもの。


 しかし、そこで気を抜いたのがいけなかった。家でずっと過ごすようになって、アプリにどハマりした。滅茶苦茶課金をしたりしてる訳じゃないけど、家にいる時はずっとやっている。


 そこでいつもコンビニでちょっとした食べ物を買ってつまみながらやってるせいか、最近になって急に太り始めてきた。


 お風呂でちょっと肉がついたかな? なんて思ったりもしたけど、私の中ではまだまだ許容範囲だったのだ。


 でも、圭太は許してくれないらしい。

 最初の方は何も言わなかったけど、ちょっとぴっちりとしてきた私に向かって、説教を始めたという訳だ。


 まったく。優秀すぎる息子も考えものね。

 私の変化にすぐに気付くんだから。


 「ちょっと聞いてる? もう少しコンビニで買う量を減らすか、運動量を増やすか。ジムに行ったって良い。ちょっとその体型は見苦しいよ」


 「コンビニの揚げ物ってなんであんなに美味しいのかしらね…」


 「それには同意するけども。今はそういう話をしてる訳じゃなくて」


 まぁ、私を心配して言ってくれてるのは分かる。後一年もしないうちに、私の死んだ日がくるらしいし。その日を超えるまでは安心出来ないんでしょう。


 「分かったわ。ちゃんと制限します。運動の量も増やします」


 「うん」


 あからさまにホッとしたような顔する圭太。私は心配しすぎなんじゃないかと思うけど。


 私の事を思って言ってくれてるんだし、流石に無下にはしないわ。

 大した運動もしてるように見えない圭太が凄い体を維持してるのはちょっとムカつくけど。


 梓ちゃんも良い体してるのよね。

 どうやって管理してるのか、ちょっと聞いてみようかしら?

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