第25話

 翌日には白波の体調は完全に戻ったようで、学校にも登校、学校が終わるまで散々俺の周りで騒ぎ、屋敷帰る。

 そしていつものようにみんなで食事をするのだけれど、そこにはいつもと違う光景があった。


「冬花、ピーマン避けてるでしょ! ちゃんと食べなさいよ」

「そういう月夜こそ、グリンピース残してるじゃないのよ!」


 おいおい、昨日までは白波に忠誠心を持っていた月夜さんが叛逆してるぞ。

 しかも低レベルな子供みたいな喧嘩。


「お二方、当然ですが残さないように食べてください」


 美鈴さんの言葉に、ビクッと二人が反応する。


「月夜、グリンピース食べるからピーマン食べて」

「了解」

「お嬢様? 月夜さん?」


 美鈴さんの圧にしぶしぶ苦手な食材を口にする。


「ど、どうかしたのでしょうか。月夜さん」

「なんか、いつもと、違う」

「ふふっ、まるで昔の二人みたいね。ね、美鈴ちゃん」

「そうですね。まるで姉妹のように喧嘩して、たまにああやって嫌いなものを交換してましたね」


 舞華さんと美鈴さんは懐かしむように二人を見つめる。


「まさか二人があんな喧嘩をするとは思ってなかったですけど。まぁ、喧嘩するほど仲がいいと言いますしね」

「……そうですね。ある方ともよく喧嘩してますし」


 なんだか含みのある言い方をする美鈴さん。


「……あっ! うっかりしてたわ」

「舞華さん、どうかされましたか?」

「明日の食材の買い出しをしてないの。どうしましょう」

「他に食材は?」

「あるにはあるんだけど、全体的に少なくなってたから、明日一気に買っておきたいのよね」

「ですが、明日まで車は整備に出しているため、徒歩で近くのスーパーに行くしか」

「なら、いい機会だし、全員で買い出しに行ったら?」


 そう提案を出すのは意外にも白波だった。


「しかし、お嬢様一人屋敷に残すのは」

「え? 私もついていくつもりだけど」

「冬花も? ただスーパーで買い物に行くだけなのに?」

「あまり食材を買いに行く機会なんてないから私にとっては新鮮なのよ。どうせ明日は休みだから暇だしね」

「それもそうだけど」

「じゃあ決定ね! 明日は全員で近くのスーパーに買い出しよ」


 またお嬢様の唐突な思いつきに付き合わされることに。

 こう言い出したら決定事項だから、俺が反論する意味なんて──ん? ちょっと待てよ。

 さっき車が使えないから、近くのスーパーを利用するって……俺、あそこの店出禁になってるんですけど!?


「い、いや、俺は留守番させてもらっていいですか?」

「ん? 貴方もついていくに決まってるじゃない」

「ですが、防犯を考えると、一人は残った方が」

「そこは問題ありません。白波家のセキュリティは万全ですので」

「それに、こうしてみんなで買い物だなんて楽しそうじゃない? ね、御影ちゃん」

「はい! 私も皆さんと買い物したいです!」

「ふふ、楽、しみ」


 ダメだ。

 みんなが仲良くなったことで団結してる。

 なんとかして、俺だけでもここに残らねば。


「……そういえば春太君、買い物のことで一つ聞きたいことがあったんです。なぜ、いつも買い物に時間がかかってるのでしょうか? 近くのスーパーならもっと早く帰ってこれますよね?」


 俺が最も避けていたことを言及され、表情が固まる。


「たしかに、春太さんに買い物をお願いすると、いつも遅いですね。てっきり荷物が多いからだと思っていたのですが」

「でも、前に牛乳を一本買ってきてもらった時も遅かったわよ〜?」

「道に迷う、御影、でも、もっと早く、帰って、きてる」

「た、たまにしか迷ってませんよ!」


 やばいやばい、全員が不審点を上げ始めてる。


「そういえば春太、貴方どこでアルバイトしてたんだっけ?」


 ちょっとお嬢様? なんで今その質問したのですか?


「そ、その……す、スーパーです」

「もしかしてですが、近くのスーパーですか?」


 美鈴さんの問いに首を縦に振る。


「あーたしかに前に働いていたところに行くのはちょっと気まずいですよねー」

「そ、そうなんですよ!」


 出禁になったとは言えるわけもなく、御影さんの勘違いに便乗する。


「ですので、俺は留守番を──」

「却下よ。大荷物になることがわかってるのに、男が行かないって考えられないわ」

「たしかに、荷物も重たいですから、一人でも人がいると助かりますね」

「はい、じゃあ決定。これは命令だから」


 もう俺の意見は聞いてくれないようで、明日全員で買い物に行くことが決定してしまった。


「春太君春太君」


 みんなが明日の買い物について話している間に、月夜さんがこっそりと話しかけてくる。


「もしかしてですけど、前のお店と何かあったんですか? 春太君のような人をわざわざクビにすることまでしたんですから」


 今までの冷たかった態度だった月夜さんが、ここまで優しい口調で俺のことを心配してくれるなんて、涙が出そう。


「実は店長に一方的に辞めさせられそうになって、その時に両親の保険を使えばいいなんてことを言われて、つい手が出てしまってクビになったんですよ」

「……そうなんですか」

「まぁ、手を出したの俺なんで、何もいえないんですが、以前に買い物を頼まれた時にその店に行ったんですが、店長に出禁を言われまして」

「へー……そんなことが」


 あれ? なんか月夜さんの笑顔が怖い。


「ですから、俺はできれば留守番を」

「ちょっとそこ! 何かそこそこしてるのよ」

「別になんでもないよ」

「ならいいんだけど」


 話を聞かれていないようで一安心だ。


「というわけで、月夜さんからなんとか俺が不参加になるように動いていただけないでしょうか」

「ダメです。春太君は絶対参加です。これは決定事項です」


 真摯に聞いてくれてたのに、急にハシゴ外されたんですけど!?


「俺の話聞いてました!?」

「聞いた上でですよ。安心してください。ちゃんと春太君に害がないようにしますから」


 結局俺には味方はいないらしい。

 どうなってしまうのかと、悩みを抱えながら、俺は明日を迎えることになった。

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