第17話

 ビル街を歩き、ゲーセンにやってきた俺達。

 外は車やモニタに映る広告の音声ばかりだったが、中に入ると騒がしくゲーム音が鳴り響く。


「うるさいわねここ。なんとかならないの?」

「無茶言うな。この騒々しいのもゲーセンの醍醐味なんだよ」

「そうなの? 庶民の感性はわからないわね。それで、どうやって遊ぶの?」

「その前にだけど、硬貨は持ってるか? 特に百円玉」

「あいにくだけど、硬貨は持ち歩かない主義なのよ」


 あー、はいはい。お金持ちですごいですね。


「百円玉ないと遊べないからな」

「はぁ!? なんでよ! 一万円札なら持ってるわよ!」


 呆れて思わずため息を吐く。


「よーくここを見ろ」


 近くのゲーム機の硬貨投入口を指差す。


「ここには硬貨しか入らないんだよ」

「意味わからない。わざわざ硬貨しか使えないようにするななんて」

「そりゃただのゲームにいきなり一万円投入されても困るだろうが。だが安心しろ、ちゃんと両替機があるから」


 手本に千円札を投入し、百円玉に両替する。


「なるほどね」


 白波も俺を習って一万円札を投入する。

 そして、迷うことなく全額を百円に両替させやがった。


「なんか溢れそうなんだけど!?」

「あほ! 全額両替したら百枚出てくるだろうが! 美鈴さん! 奥にメダルコーナーあるんで、そこからカップ借りてきてください!」


 すぐに美鈴さんは黒いカップを持ってくる。

 俺はそれを受け取り、床に散らばった硬貨を拾い集める。

 取り出し口の硬貨もカップに入れて、それを白波に渡した。


「重いわね」

「自業自得だ」


 むすっとしている白波だが、変えようのない事実なのだから仕方ないだろう。


「美鈴、持ってちょうだい」

「かしこまりました」

「じゃあ、案内してちょうだい。もし楽しめなかったら、承知しないから」

「はいはい。なら手始めに、これでもやるか?」


 近くの置いてあった、太鼓型のリズムゲームに案内する。


「何これ? 太鼓?」

「太鼓を使ったリズムゲーム。音楽に合わせてアイコンが流れてくるから、それに合わせて叩けばいい。まぁ、やればゲーム説明受けられるから、やってみたらどうだ?」

「そうね……やってみようかしら」


 早速バチを持ってゲームを始める。

 簡単なゲーム説明と叩き方のレクチャーを受け、楽しそうに太鼓を叩く。


「このゲーム簡単じゃない。さすが私ね。初めてでもここまでできるなんて」


 ただのチュートリアルだけでここまで自画自賛できるのはある意味才能だよな。


「それでチュートリアルは終わりだから、楽曲を選択しろ」

「ふん! 今の私ならどんな曲でもやり遂げてみせるわ」


 と言って、最高難易度の曲を選択する。


「おい! それ激ムズの曲だぞ!」

「それがどうしたの? どれだけ難しくても、白波家の私にとっては大したことないわよ!」


 自信を持つことは悪いことじゃないが、今白波家全く関係ないだろ。

 結局、俺の忠告を無視して始めた結果、どうなったかと言うと……当然の如く、失敗。

 一回も打てずにフルボッコだドン。


「何よこの曲! 人間のできる動きじゃないわよ!」


 自分で選択しておきながら、文句を垂れる。

 でも、あんな楽譜でパーフェクトはおろか、演奏成功することも困難だろう。

 たしかに、人間離れした動きしないと無理だ。


「後一回遊べるけど」

「美鈴、さっきの曲に挑戦して、私の仇を打ちなさい」

「かしこまりました」


 おいおい、美鈴さんにやらせるのかよ。


「美鈴さん、やったことあるんですか?」

「いえ、一度も。ですが、さっきの曲でしたら、なんとかなるかもしれません……いえ、やり遂げてみせます」


 よくわからないが、やる気満々でバチを握る。

 その結果、見事演奏成功。

 それだけではなく、パーフェクトを達成したのだから、驚かないのは無理だ。


「や、やるわね」


 人にやらせておいて、ドン引きはよくないぞ。

 一打一打が鬼気迫る、魂のこもったものだったけど、ドン引きはよくない。


「すごいですね。初見でパーフェクトだなんて」

「お褒めいただき、ありがとうございます。ですが、私はやるべきことをしたまでです。この曲を失敗してしまったら、当分寝込んでいましたから」


 一体どういことだ?

 ふと、美鈴さんがクリアした曲名が視界に入る。

 聞いたことあるなとは思ったけど、これ、ぷるキュアの挿入歌だ。

 オタクの執念……恐ろしや。


「つ、次よ次! さっさと次のゲームに案内しなさい」


 せっつかれ、次のゲームへ。

 今度のゲームはレーシングゲーム。

 ちょうど三台空いている。


「これやるか? 三台空いてるから、対戦レースができるぞ」

「なに? 私に勝とうっての? 惨めに私にひれ伏すことになるわよ?」

「え? もしかして、このゲームやったことあんの?

「ないわ!」


 なんでやったことないゲームで勝つ自信があるのこいつ。


「すいません。私も初めてなんですが」

「まぁ、俺も初めてですから」


 同時に硬貨を投入し、レースが始まる。

 カウントダウンが始まり、ゼロと同時に一斉にスタート。

 最初のコーナーでドリフトしながら曲がろうとした瞬間、赤色の車がドリフトしながら横からぶつかり、木に衝突する。


「あらごめんなさい。ぶつかっちゃった」

「お前わざとだろ!」


 すぐにコースに戻り、前方の二台を追いかける。

 距離は縮まるものの、トップは白波。次に美鈴さん。最後に俺と言う並び。

 最終ラップの最終コーナー。

 俺は最期の賭けに出る。


「このレース、私の勝ちよ!」


 最終コーナーを二台の車が曲がる。

 俺も、同じようにドリフトしながら曲がろうとするが、他の二人よりもコーナーギリギリを狙い、そしてトップの白波を横から押し出し、俺の時のように、木に衝突させた。


「春太! 何してくれるのよ!」

「さっきのお返しだ」


 そのまま先頭を譲らずにゴール。

 最終結果、一位俺。二位美鈴さん。ドベ白波となった。


「おいおいおいおい! 最初の自信はどうしたのかな〜? お嬢様?」


 今までの恨みを晴らすように、煽り散らかす。


「その顔ムカつく! 次のゲームでボコボコにしてやるから!」

「やれるもんならやってみろ! 勝てたら土下座でもなんでもしてやるよ!」

「でしたら、あのゲームではどうでしょうか」


 美鈴さんに誘われるまま、ゲーム台に座る。

 それから十分後。


「大変調子に乗って申し訳ございませんでしたお嬢様」


 俺はゲーセンの中心で謝罪の言葉を述べていた。


「私の実力、思い知った?」


 思い知ったけど、クイズゲームはズルくないか?


「さすがお嬢様です。博識でございますね」

「当然よ。白波家たるもの、勉学は当然のことだけど、芸術にも明るくないとね」

「……もう満足ですか?」

「できればずっと見ていたいけど、しょうがないから許してあげるわ」


 許しをいただけたので、立ち上がる。

 充分ゲーセンは楽しんだことだし、もうそろそろ退店しよう。


「白波、もうそろそろここ出るぞ」

「まだ硬貨がたくさんあるんだけど」


 カップにまだ残ってる百円玉を見せつける。


「いや、それ全部消費しようと思ったら、一日ここにいないといけないぞ」

「それは嫌よ」

「なら大人しく財布に入れるんだな」

「嫌よ、思いじゃない」

「じゃあどうするんだよ」


 悩んでいる白波は、近くの子供達に目がとまる。


「そこの君達」


 数名で遊びに来ていた子供達を呼ぶ。

 そして持っていた硬貨を全てプレゼントした。

 子供達は大喜び。

 白波に「ありがとう」と感謝し、近くのゲームに群がった。


「おいおい、いいのかよ」

「あんな重いもの持って歩きたくないわよ。それに、あんなにも喜んでるんだから、いいじゃない」


 他人の金だし、これ以上とやかく言うものでもないか。


「それで、今度はどこに連れてってくれるの?」

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