第16話

「や……やっと着いたわね」


 目的の駅に到着し、駅を出たところで白波がぽつりとつぶやく。

 電車に乗った経験がないのであれば、人混みの中で立ちっぱなしという経験もそうないのだろう。

 だが、俺も精神面で疲れた。

 自分のことを美少女と自信を持っていうだけのこともあり、白波の容姿は男達の目を引いていた。

 さらに美女が立っていれば、普通の男なら目で追うことは間違いない。

 そして、そんな二人の近くに冴えない男が立っているのだから、妬みたくなるのもわかる。

 だから、周りの野郎共の視線は甘んじて受けた。

 ただ、邪な考えで近づく野郎もいたので、そいつらにガンを飛ばして牽制したりして、目的地に着いただけでヘトヘトだよ。


「春太さん。最初はどこへ向かうのでしょうか?」


 俺達とは違い、汗一つかかずに平然としている美鈴。

 さすがメイド長というべきか。


「とりあえず移動で疲れましたので、休憩も兼ねてご飯でも食べようかと」

「そう、ならこの近くに三つ星のレストランがあったはずだから、そこに──」

「却下」

「なんでよ! あ、テーブルマナーを気にしてるのね。安心しなさい。テーブルマナーは私と美鈴でちゃんとフォローするから。ドレスコードもないから安心しなさい」

「そんな心配はしてない。絶対そこ高いだろ」

「そんなことないわよ。一食三万程度や」

「そんなことあるわ! 高すぎるわ! 払えるか!」

「別にそれぐらいこっちで払うわよ」

「ダメだ。そもそも今日は友人と遊びに行く体できてんだろうが。一般的な高校生は昼飯に三つ星レストランには行かないんだよ」

「お嬢様、今回ばかりは春太さんの言う通りにしましょう」

「でも」

「お嬢様、これはお嬢様にとって社会勉強になります。勉学は申し分ないと思っておりますが、他人との交流がないために、同級生との価値観のズレを知りません。白波家として、一般的なお金を価値観を持つことは必要と思います」

「うっ……わかったわよ。今回は春太に任せる」


 美鈴さんにも説得され、がっくりと項垂れて渋々了承する。

 ということで、高校生の財布にも優しい、イタリアンファミリーレストランへ。

 店の中に入ると、すでに席は満杯。

 席を空くまで待つ人も多くいる。

 書き入れ時なのだから、これはどうしようもない。

 とりあえず、受付に俺の名前を記入した。


「他に候補はなかったの?」

「なんだ? 不満なのか? それなら牛丼かラーメンにでもするか?」

「貴方、女子を連れてその二つの提案は流石に引かれるわよ」


 そんなにまずいか? 牛丼とハンバーガー。

 たまにお世話になってるんだけど。


「ところで、席に案内されないんだけど」

「当たり前だろ。まだ俺達の番じゃないんだからさ」

「え? まさか待つの?」

「当然」

「なんとかならないの? 白波家の名前を出せばもしかしたら」

「こんなファミリーレストランでそんなことしたら笑われもんだぞ。あと、今日はそういうのは一切なしだ」

「お嬢様」


 反論する好きを与えないように美鈴さんが釘を刺すと白波は黙って近くの椅子に座って待つ。

 二十分経ったところでようやく席に案内される。

 テーブル席に白波と美鈴さん、対面に俺が座り、店員からメニューを受け取る。


「ねぇ、このお店のおすすめとかないの?」

「ドリアだな」

「じゃあ、それでいいわ」

「私はカルボナーラを」


 なら、俺は奮発してハンバーグステーキにしよう。

 ベルを鳴らし、店員に注文をする。

 十数分後、俺達の前に料理が並べられ、各々食べ始める。


「私もここに来るのは初めてですが、値段と比べると十分美味しいですね」

「白波はどうだ?」

「まぁ……そこそこ美味しいわね」

「そこそこって……」

「それは仕方ないんじゃないかしら? 春太もそう思ってるんじゃないの?」


 まぁ、美鈴さんの食事と比べてしまえば、劣っているように感じなくもない。


「でもそれは素材の問題で、全部ではないけど、白波が普段食べるものは高級な食材だろ?」

「まぁ、そうね。だから少し驚いているのよ。ここまで値段を抑えてるのに、私に『そこそこ美味しい』と思わせるなんてね」

「お嬢様なりに褒めているのですよ」

「余計な一言よ美鈴!」


 随分上から目線な褒め言葉なこと。


「ところで春太さん。この後はどうするのでしょうか」

「元々は俺の服を買いに行くことが目的でしたが、それを先に済ませてしまうと、荷物になりますから最後にしようかと」

「じゃあ、どこに行くのよ?」

「そうだな……とりあえずゲーセンでも行くか?」

「ゲーセン?」

「ゲーセンも知らないのか?」

「バカにしないで! 大体どういうところかは知ってるわよ。ただ、私には無縁な場所だったからね」

「もしかして美鈴さんもですか?」

「いえ、私は行ったことがありますので」


 美鈴さんがゲーセン……全然想像が出来ないな。


「美鈴がゲーセンなんて意外ね。何をしていたの?」

「まぁ……色々なものを」


 誤魔化すようにカルボナーラを口に運ぶ。


「なら、食べ終わったらゲーセンに行くってことで」


 この後も予定も決まったことなので、とりあえず目の前料理を空にした。

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