fiction in myルーム

上野空

ミンと彼とiPhone

帰路

 それはそれは美しい人間だった。

 すき?なのかな。違う

 絶対、ずっと好き。

 悲しい子、なんだかほっとけない。ただそれだけ

 重たい、怖い。仕事が忙しい、申し訳ない。

 彼は、弱く不注意で入念で不器用


「5月23日、どうやらあなたを迎えに行く道中の出来事だったそうですよ。」

 電話越しの警察は無神経に『こと』を淡々と伝える。

「2日前です。あなたの誕生日前日。」

5月23日とは確かに私の誕生日前日だった

「仕事終わりの中村さんは、車であなたの家に向かっていたようです。」

「高速道路で大型のトラックの幅寄せにより、壁と接触。」

「即死だったそうです。」

 そして中村とは、私が8日前に付き合うことになった、彼氏の名前だった。

「本日の18時からお通夜、お葬式は明後日だそうです。場所は…」

 嵐のような週末。現実のこととは思えなかった。99件のたまったLineの上から8番目。赤い丸の中に数字の5の字が見える。既読をつけていない中村からのメッセージだ。「お疲れ様。今から向かおうと思うんだけ・・・」とメッセージの始まりの1行目だけが読めた。そのメッセージは金曜日に送信されている。そう、2日前の事件が起きた日だ。


「よろしいですか?」


 「はい。」と続けて警官に礼を言い電話を切った。時刻は5時。急げばお通夜の会場に余裕をもって向かうことができる。でも、私は他に行く場所があるから明日のお葬式に出席しよう。思考はいたって冷静だった。

現実味がないからだろうか、涙は出なかった。

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