vsピクシー

「いきます! ――【パワーショット】!」


 力強く放たれた矢が、ふよふよと宙を浮く一匹のピクシーを射抜くと、


「ρς!?」

「「ωΕψξυ!」」


 ピクシーたちはこちらに気付き、聞き慣れないノイズのような言葉を発した。


 相手は初見。慎重に対応しようか。


 俺はカリンとピクシーの導線上を位置取り、【玄武の型】を構えて、迎撃体制をとった。


 集中しろ……ピクシーの一挙一動を見逃すな。


 俺は『千姿万態』の柄を強く握り、目の前のピクシーに意識を集中させる。


「まだです! ――【ダブルショット】!」


 後方――カリンから素早く放たれた2本の矢が、先ほど射抜いたピクシーの胴体を更に射抜くと、ピクシーはか細い悲鳴のようなノイズをあげ、地に落ちた。


 ――!?


 スキルを使用したとはいえ、カリンの攻撃2回で落ちた……?


 ん? ホブゴブリンの同格とは思えないくらい……ピクシーは雑魚? 虎太郎の言うとおり、経験値が美味しいだけの敵なのか?


 地に落ちて、光の粒子と化して消え去ったピクシーに意識がそれた、その時。


 ――!



 胸に呼吸困難に陥るほどの強烈な衝撃を受けた。


 ッ!? ……な、なにが起きた……。


「ア、アオイ君! 大丈夫ですか!」


(個体名ピクシーの魔法【ウィンド】により、マスターの生命力が27%喪失しました)


 は? 27%・・・


 【ライブオンライン】はHPだけは、数値化されずに割合で表示される。


 全快の時のHPが100%。そして、0%まで減少するとデスペナルティ――死だ。


 つまり、今の正体不明の攻撃――【ウィンド】を合計4回食らえば……終了ゲームオーバーとなる。


 おい! 虎太郎! なにが遭遇できるだけでラッキーな敵だよ! 激ヤバな相手じゃねーか!!


 俺はこちらの世界ではまだ会えぬ悪友に悪態をつきながらも、ピクシーに再度意識を集中させる。


 メティは今の攻撃をピクシーの魔法といった。


 【ライブオンライン】をはじめてから、魔法を目の当たりにしたのは初めてだが……あれだけ強烈な攻撃がノーモーションなはずがない。


「カリンはピクシーへの攻撃を続けろ!」

「は、はい!」


 ふよふよと浮かぶ2匹のピクシーを注視していると、右のピクシーが両手をグッと前に出し、力み始める。


 あれが、予備動作シグナル


 わかりやすいじゃねーか……さっきのは完全に俺の失態か……。


 ピクシーが突き出した両手をパッと開くと、風の塊……としか表現できない何かがこちらに飛来してきた。


 把握さえしてしまえば、避けるのは容易たやすい。


 俺は軽くサイドステップを刻み、ウィンドを回避した。


 回避に集中してしまえば、避けるのは容易イージーだが……こちらが攻撃しながら、或いはゴブリンと同時にエンカウントしたらちょっと手強い相手になるな。


 ウィンドの射程はカリンの弓よりも短いのか、今のところピクシーたちの攻撃はすべて俺に集中している。


 とりあえず、今は回避に集中して、攻撃はカリンに任せるか。


 戦闘方針が決まったところで、俺は回避し易い独自の構えで待ち構えた。


 後方からカリンの矢が飛来する中、左側のピクシーが両手を突き出し、力み始めると……、


「――【パワーショット】!」


 カリンの放った力強い矢に射抜かれた、ピクシーが大きく仰け反り攻撃が破棄キャンセルされた。


 一定以上の衝撃を受けると魔法攻撃は破棄される?


 今後、ダンジョン内で安全に稼ぐために、カリンには牽制を覚えてもらう必要がありそうだ。


 今のパワーショットは偶然か狙っての一撃か……後者ならいいなぁと感じながら、ピクシーの一挙一動を注視するのであった。


 程なくして、すべてのピクシーが地に落ち、消滅。


 今回に限っては俺はほぼ回避……いや、傍観するだけとなり、攻撃のすべてがカリンによるものとなった。


「ふぅ……アオイ君、お疲れ様でした」

「お疲れ。今回はカリンにおんぶでだっこ状態だったな」

「いやいやいや、私が攻撃に集中できるのはアオイ君がいつも私を守ってくれるから……つまり、アオイ君のお陰ですよ!」


 守るか……。初見で何も知らない最初こそは魔法を放たれたが、その後は見事にピクシーの阻害に成功していた。


 後半の俺は本当にただ突っ立っているだけだった。


 と、ネガティブになる必要はない。次にピクシーと遭遇したときに、今回の経験を活かせばいいだけだ。


 ピクシーを強敵から美味しい獲物にする鍵は――カリンだ。


「カリン、後半に放った【パワーショット】は狙ってか?」

「はい! 先程、アオイ君に牽制とか予備動作を教わったので実践してみました! どうでした?」

「狙ってやったのなら、完璧だ」

「多分ですが……強いスキルを命中させるか、頭に攻撃すればあの強い攻撃を中断させることができます」

「ほぉ」

「頭に命中させたときも少し仰け反ったので……次、遭遇したら試してみてもいいですか?」


 あの小さな頭にヘッドショットか……言うは易く行うは難し。


「あぁ、期待しているぞ! カリンが牽制してくれるなら、次回からは俺も攻撃に参加するとしよう」

「はい! 一緒に頑張りましょう!」


 その後、入念に気配察知をしながらダンジョン内を進み……戦闘を重ねた結果、ピクシーは強敵から美味しい獲物に格下げになったのであった。



  ◆



 大きく寄り道をしながら、ダンジョンコアを目指すこと6時間。


「アオイ君……アレが、ダンジョンコアでしょうか?」


 カリンは小さな声で問いかけてくる。


「ダンジョンアプリの地図で照会した感じ……っぽいよな」


 端末に表示されている地図上に輝くドットと、台座におさめられた目の前の光り輝く白い球体の位置が見事にリンクしている。


「ということは、アレを壊せば『初心者クエストⅥ』達成なのですね」

「……だな。アレを壊せたら・・・・『初心者クエストⅥ』達成だ」


 しかし、ダンジョンコアがおさめられた台座の前には、危険度レッドのモンスター――守護者が存在していたのであった。

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