ラッキーな敵?

 ホブゴブリンを狩りを優先し、寄り道しながらダンジョンコアを目指すこと3時間。


「ホブゴブリン狩りはだいぶ慣れてきたな」

「ですね! 先程はアオイ君が1人で倒しちゃいましたね」

「ホブゴブリンは同格だから、まだまだ油断は禁物だが……攻撃パターンさえ把握できれば、なんとかなることは多いからな」

「えー!? 私から見ると、攻撃パターンを把握しているというか……未来予知的な動きでしたよ」


 カリンは俺を大げさに称賛するきらいがあった。


「未来予知て……。慣れたら誰でも……とまでは言わないが、俺と同じ動きをできるプレイヤーなんぞごまんといるさ」


 ライブオンラインは、AIの動きが本物の人間がプレイするのと差が見当たらないくらいに高いクォリティを誇っていた。そのため、ゲームでよくある露骨な合図シグナルは存在しないが……リアリティが高すぎるが故に存在する予備動作シグナルがあった。


「えー!? そうなると、私はまだまだ未熟です……いつもアオイ君の足を引っ張ってしまい申し訳――」

「あー! 違う、違う、違う! そうじゃないから! カリンは後衛アタッカーとしてはかなり高いレベルにいると思うぞ」

「そうでしょうか……でも、アオイ君が後衛アタッカーを望んでいるのでしたら、狩人を選択したほうが良かったですね……」


 事実、バッファーとしては機能していないが、後衛アタッカーとしてみる、カリンの弓の技術は卓越していた。


 一度、遊びで俺も弓を使ってみたが、まともに敵に当てることすら無理だった。ナビゲーションのアシストを使えば、ある程度様にはなったが……近接武器とは比較にならないくらいに難しく、実戦ではつかいものにならなかった。


 状況に応じて、敵の動きに合わせ、また自らも動きながら弓を駆使するカリンのプレイヤースキルはかなり高いレベルだと感じた。


「前衛と後衛、或いは役割ロールによって求められる能力は異なるからな。使える魔法が増えればバッファーとして、機能するさ。何より、現状でもカリンは後衛アタッカーとして他人に誇れるレベルだと思うぞ」

「うぅ……ありがとうございます! もっと精進してアオイ君の背中を守れるようになりますね!」

「俺の背中を守るか……。まぁ、物理的に守るのは役割ロール的にあり得ないが……牽制とかで守ってくれると嬉しいかな」

「牽制ですか」


 カリンが前のめりに聞いてくる。


「そそ。敵の攻撃を事前に阻止したり、遅延させるみたいな? 予備動作を把握できるようになれば、効果的な牽制もできるようになるから……意識はしたほうがいいかもな」

「うぅ……予備動作ですか……」

「例えば、ゴブリンのような四足歩行の人型なら視線、足の向き、肩の動き、筋肉の揺れ……などなどコツさえ掴めば、対応するのは割と簡単だぞ」

「割と簡単って……アオイ君は格闘技の経験とかあるのですか?」

「いやいや、現実リアルの俺は超絶インドア派だよ。なんて言えばいいかな……ゲーム内だと現実リアルと違って運動能力とか動体視力が跳ね上がるだろ? だから、思ったよりも簡単だよ」

「うぅ……アオイ君は無自覚の天才さんです……」

「まぁ、難しいと感じるかもしれないけど、意識してみ。ワンランク上のプレイができるようになると思うぞ」

「頑張ってみます……!」

「おう、頑張れ!」


 向上心があることはいいことだ。前向きになったカリンと共に再び移動を開始すると、


「アオイ君……この先に危険度イエローの敵がいます」


 危険度イエロー


「ホブゴブリンではなく?」

「はい。初めて遭遇する敵だと思います。しかも、3匹います」

「え? 同格が3体?」

「はい。迂回しますか?」


 同格が3体か。ホブゴブリンと同程度の強さなら……3体同時に相手にしても問題はないのだが……。


「んー、とりあえず、遠目でもいいから、どんな敵なのか確認してみようか」

「はい、わかりました」


 カリンの先導に従い、移動すること1分。


 10メートルほど先に羽根の生えた小さな少女がふよふよと宙に浮かんでいた。


「妖精でしょうか?」

「アレがピクシーなのか?」

「アオイ君は、あの妖精を知っているのですか?」

「実物を見るのは初めてだが……例の現実リアルの悪友から話だけは聞いていた」


 なんだっけ? 虎太郎曰く……弱くて、脆くて、経験値が美味しい、遭遇できたらラッキーな敵だったか?


 ってことは、ラッキー?


「アオイ君、どうしましょうか?」

「悪友曰く、ピクシーは弱くて、脆くて、経験値が美味しいらしい」

「そうなのですか!?」

「悪友曰くな」

「それじゃ……倒します?」

「そうだな。倒してみるか……何度も言うが――」

「危険を感じたら即撤退!」


 俺の伝えようとした言葉はカリンの口から告げられた。


「いつも通りカリンの奇襲からスタートしようか」

「倒せるまで同じターゲットを攻撃すればいいですか?」

「そうだな」

「了解です!」

「それじゃ、行こうか」


(ピクシーです。危険度はイエローです)


 悪友虎太郎曰く、遭遇できればラッキーな敵――ピクシーへと戦いを挑むのであった。

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