vsゴブリンファイター

「カリン、念のためゴブリンファイターへのFAは控えてくれ」

「FA……?」


 俺の指示にカリンが首を傾げる。


 しまった……FAは仲間内で使う略称だったか。


「ファーストアタック。ゴブリンファイターへの一発目の攻撃は控えてくれ」

「わかりました」


 現状ではヘイトコントロール出来るスキルを習得していないので、接近戦が不慣れなカリンにヘイトが集まるのは避けるべきだろう。


「左手前にいるゴブリンは俺が【雷閃】で倒す、その横にいるゴブリンはカリンとミランで倒してくれ。その後、俺はゴブリンファイターを引きつける、カリンとミランは残ったゴブリンを仕留めてくれ」

「了解です!」

「オッケー!」


 二人の返事を確認した俺は、三歩ほど前へと踏み出し【青龍の型】を構えた。


「準備はいいですか?」


 カリンの呼びかけに、無言で首を縦に振りで応えると、


「いきます! ――【パワーショット】!」


 カリンの綺麗な姿勢から放たれた力強い1本の矢が、俺の指定したゴブリンの頭部に突き刺さった。


「グギャ!?」

「ギィ! ギィィィ!」


 ゴブリンはポムスラとは違い、同族意識のあるリンク型だ。同族のゴブリンが攻撃されたことにより、近くにいた残りのゴブリンも一斉にこちらに敵意をむき出しにして襲いかかってきた。


 俺は迫り来るゴブリンに切っ先を向け、集中力を高める。


 ここだ!


 先頭を走っていたゴブリンがこちらの間合いに入ったのを確認すると、


「――【雷閃】!」


 力強く地を蹴り、雷と化し、突き出した『千姿万態』の切っ先をゴブリンの喉元へと突き刺さした。


「……グェ」


 ゴブリンはか細い悲鳴をあげて地に倒れた。


 さてと、問題はここからだ。


 ぶっつけ本番になるが……成功してくれよ。


 ――【ステップ】!


 俺は前屈みになって前方へとステップし、ショルダーチャージのような形でゴブリンファイターに体当たりをかました。


 さすがはリアリティ性の高いライオンだ。技でも攻撃でもない、【ステップ】による体当たりだが、予想した通りにゴブリンファイターを吹き飛ばすことに成功。その後、何度も反復練習を重ねて習得したバックステップで距離を取ると、


「――【青龍の型】!」


 スキルを唱えることで、強引に乱れた体勢を整える。


 詠唱と非詠唱トレースを使い分けることで、戦術は大幅に向上した。


 戦闘の基本は後の先。【青龍の型】で待ち構えるも、ゴブリンファイターは慎重なのだろうか、仕掛けてこない。


 右目を瞑ると、【雷閃】のCTは残り7秒。


 CTが終わったら、こちらから仕掛けるか。


 初手【雷閃】は……悪手だよな。


 【雷閃】は発動が早く、射程も悪くないので初手として優秀なのだが……発動後は体勢の問題から硬直が生じるので、倒せなかった場合はその後がキツくなる。


「来ないのか?」

「ギィ、ギィ」


 言葉で挑発してみるが、通じるわけもなく。


 カリンとミランが合流するのを待つか……と考えた、その時。


「ギィ!」


 俺の思考が逸れたのを感じたのか、ゴブリンファイターがハンドアクスを振り上げた状態のまま大きく跳躍してきた。


 うっそ!?


 バックステップで交わして反撃……が理想だったが、意表を突かれた俺はバックステップをする余裕もなく、『千姿万態』を横に寝かせて防御の姿勢を取るのが精一杯だった。


 ――!?


 目の前に火花が散ると、金属同士がぶつかる激しい衝突音が響き渡り、腕と肩に強い衝撃が襲いかかる。


 ――【ステップ】!


 痛みを堪えながらバックステップで距離を空けると同時に、反対方向――前方へと右足を蹴り出し、


「――【雷閃】!」


 ゴブリンファイターへと雷と化した突きを放つと、切っ先は首筋から逸れて左肩に突き刺さった。


「ギィ!」


 案の定、致命傷にはほど遠くゴブリンファイターは右手に持ったハンドアックスを振り上げる。


 バックステップをするにも、サイドステップをするにも体勢が悪い。


「クソッ!」


 俺は左手を振り上げ、振り下ろされるハンドアックスを迎え撃つように鉄の籠手をぶつけ、そのまま右足で押し出すようにゴブリンファイターを蹴り飛ばすと、


「――【パワーショット】!」


 後方へとたたらを踏んだゴブリンファイターの頭に1本の矢が突き刺さった。


「ナイス! カリン! ――【朱雀の構え】!」


 大きく振り上げた構えから千姿万態を振り下ろすと、ゴブリンファイターが両断され光の粒子と化して消え去った。


(【刀術】の熟練度が成長しました。【玄武の構え】、【居合】を習得しました)


「ふぅ……キッツ」


 激戦を制した俺は深く息を吐いた。


「お疲れ~」

「アオイ君、大丈夫ですか?」

「お疲れ。んー、腕はちょっと痛いけど大丈夫かな」


 最後にハンドアックスを受け止めた左手をプラプラとさせながら答えると、


「無理はダメです! コレを使って下さい!」


 駆け寄ってきたカリンが俺へと小瓶に入った液体――ポーションを差し出した。


「ポーションなら俺も――」

「どうぞ! これを使って下さい!」

「いや、だからポーションなら――」

「どうぞ!」


 カリンはグイグイをポーションを押し付けてくるので、俺は観念して差し出されたポーションを受け取った。


 そういえば、ポーションってどうやって使うんだ? 飲めばいいのか?


(部位的な損傷であれば直接かけたほうが効果は高くなります)


 消毒液みたいな使い方でいいのか?


 俺はカリンから受け取ったポーションを左腕にかけてみた。


「おぉ、痛みも腫れも出血も引いた! ポーション凄いな!」

「良かったです。念のため、もう1本――」

「いや、さすがにそれは不要だ」

「へぇ、飲むんじゃないんだ」

「ナビゲーターが言うには、こっちのほうが効果が高いらしい」

「よしっ! アオイの怪我も治ったことだし、採掘を始めるね! 周囲の警戒お願いねー」

「あいよ」

「ミランちゃん、任せて!」


 ミランは小さいハンマーを取り出し、大きな岩を叩き始めたのであった。

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