採掘スポット攻防戦

 ガッ! ガッ! ガッ! と、岩を叩く小気味良い音が周囲に響き渡る。


「ミランちゃん、何かお手伝い出来ることはありますか?」

「予備のピッケルがあるから、一緒に採掘してみる?」

「うん!」


 カリンはミランから渡されたハンマーを手に取り、岩を叩き始める。


「違う、違う! こっち、ココ!」

「んー、違いがわからないです……ココですか?」

「イエス!」

「思ったより、難しいですね」


 二人は和気あいあいと岩を叩いている。


 平和だ。


 俺は習得したスキルの練習でもしようかな。


 先程の戦いで習得した3つ目となる構え――【玄武の型】


 【青龍の型】は中段の構え、【朱雀の型】は上段の構え、となると……【玄武の型】は下段の構えだろうか。


 【玄武の構え】

『反応に特化した構え。集中力が高まり、CTを減少させる効果を併せ持つ』


 ――?


 防御に特化した……とかの説明が来ると思いきや、反応に特化した?


 どういう意味よ?


「――【玄武の型】!」


 左足を前に前屈みになり、右手は鞘を掴みながら親指でつばを柄の方に押し出し、利き手である左手で柄を軽く握った。


 この構えは……。


 続けて、俺は新たに習得したもう1つのスキルを詠唱する。


「――【居合】!」


 目にも留まらぬ速さで抜刀された刀身が、目の前を斬り裂いた。


 【玄武の型コレ】は居合の構えだ。


 【居合】

『抜刀と同時に目の前の敵を素早く斬り裂く。【玄武の型】専用スキル。CT60秒』


 CT長っ!


 ん? そういえば、説明に……。


 念のため、


「――【雷閃】!」


 【雷閃】を空打ちし、【玄武の型】を構える。


 右眼を瞑って、CTを確認すると……倍速で【居合】と【雷閃】のCTが減少していた。


 なるほど。効果は凄いが……この状態だと動けないし、取れる行動も【居合】のみ。んー、微妙だな。


 とりあえず、【玄武の型】を無詠唱でも発動出来るように練習するか。


「――【玄武の型】!」


 【玄武の型】の練習をしていると、気になる会話が聞こえてきた。


「いぇい! 成功したね!」

「やりました! これが……『鉄鉱石』なのですね」

「うんうん。このまま続ければ、カリンも【採掘】スキル覚えるかもよ」

「本当ですかー?」

「うちはそんな感じで習得したよ」

「あ! ゲームモードを起動すると青い光が……!」

「お! それそれ! そこを掘ると『鉄鉱石』が出るよー。カリン、やったね! 【採掘】スキルゲットだぜ!」


 ――!


 鍛冶師範に師事しなくても、【採掘】スキルを習得出来るのか?


「ミラン、俺にも【採掘】を教え――」


 ミランに【採掘】を師事しようとした、その時。


「「「ギィ! ギィ!」」」


 ゴブリンが襲撃してきた。


「――【玄武の型】!」


 俺は採掘しているミランたちを背に、居合いの構えでゴブリンたちと対峙。


「――! ゴブリンが3匹……アオイ、どうする?」


 ミランが採掘する手を止め、俺に指示を仰ぐ。


 ゴブリンが3匹程度なら……って、そんなわけねーか。


 襲い来る3匹のゴブリンの背後に目を向ければ、他にもゴブリンの姿が嫌でも視界に入る。


 全てを防ぐのは無理だな。


「すまない。手伝ってくれるか?」

「あいよ!」

「はい!」


 素直に助けを乞うと、二人は採掘する手を止め戦闘体制に入った。


「左から狙いますね!」


 カリンは弦を引き、狙いを伝えてくれる。


「すまん。少しだけ、実験してもいいか?」

「実験ですか?」

「打ち漏らしがいたら、フォローを頼む!」

「はい、わかりました!」

「うちもフォローに回るね」

「助かる」


 わがままを聞き入れてくれた二人に礼を告げ、俺は迫り来る3匹のゴブリンに集中。


 3匹は一斉に俺を狙っているのだろう。互いの距離が近く、いい感じだ。


 さぁ、来い!


 ――今だ!


「――【居合い】!」


 目にも留まらぬ速さで抜刀された刀身が、3匹のゴブリンをまとめて両断した。


「え?」

「わぉ!」


 一瞬にして光の粒子と化したゴブリンを目にして、カリンとミランから驚きの声が上がった。


 3匹まとめて一撃ワンキルに成功。


 うむ。良いスキルだ。


 ファーストアタックに使ってもいいが、倒せなかったときの立ち回りはどうすべきか? 即座に【玄武の型】を使えば納刀状態には戻るが……動けないからなぁ。【青龍の型】を使って体勢を整えてから、【ステップ】で間合いを取るのがベストか?


 俺は頭の中で【居合い】を組み込んだ、様々な戦闘スタイルをシミュレーションする。


 とりあえずは、【居合い】の射程、間合い、速さ、威力への理解を深めないとな。


「おーい! アオイー。うちら必要?」

「わ、私はアオイ君をフォローしますよ!」

「あ、すまん、すまん。【居合い】はCTが長いし……増援おかわりが来たら厳しいな」


 俺は視線の先に――更に迫り来るゴブリンたちを捉え、答える。


 採掘スポットを巡り、ゴブリンたちとの攻防戦は続くのであった。

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