採掘スポット
出発してから2時間後。
「ようやく着きましたね」
「思ったよりも時間かかったねー」
「遭遇した敵を漏れなく掃討したからな」
「みんなレベルも上がったし、結果オーライだね」
「うんうん」
「だな」
道中の敵を漏れなく掃討しながら進んだ結果、レベルは5に成長した。
「
「面影が全然ないですね」
「それを言ったら、周囲を見渡しても金沢の面影ゼロじゃん」
生まれてからずーっと……17年間金沢で生活しているが、建物だけでなく整地された道路までなくなってしまえば、そこはもう見知らぬ土地――異世界だった。
「ここまで原型がないと……日本をモデルにした意味はあったのか? と運営に聞きたくなるな」
「あはは、たしかに」
「ですね」
「んで、鉄鉱石はどこで採れるんだ?」
「んー、ちょっと待ってね」
ミランはそう言うと右目を瞑り、荒れ果てた河川敷を見渡した。
「めっけ! あそこかな」
ミランがそう言って指を差した方角へと視線を向けると、
「プレイヤーとゴブリンが戦っている、あそこか?」
「んー、そうなるかな」
大きな岩を背に、3人のプレイヤーが6匹のゴブリンを争っていた。
「どうします? 助けにはいったほうがいいのでしょうか?」
「んー、横殴りになるから、却下だな」
「横、殴り……?」
「第三者の戦闘に許可なく乱入することだな」
「ふむふむ」
「えっと、カリンの【パワーショット】と俺の攻撃でゴブリンを倒せるだろ?」
「はい」
「例えば、カリンが【パワーショット】を当てたゴブリンを知らないプレイヤーが攻撃して倒すだろ」
「はい」
「そうなるとゴブリンが落とす素材は所有権はどうなる?」
どうなる? なんて格好つけて聞いたが、どうなるんだ?
(ドロップ素材は最後に倒したパーティーに所有権があります)
経験値は?
(貢献度に応じてパーティー単位で分配されます)
パーティー単位で分配?
(はい。例えば、ゴブリンを倒すと10の経験値を獲得できます。マスターは現在カリン様、ミラン様とパーティーを組んでいるので、3人が全員8の経験値を獲得します。しかし、3人がパーティーを組んでいなかった――マスターがソロパーティー且つ三者が同じ貢献度だった場合、獲得できる経験値は3となります)
なるほど。
つまり、横殴りは経験値を奪う行為にもなりかねないと。そして、パーティーを組むと経験値は8割になると……。
(そうなります)
「アオイ君! 今ほど理解しました! 所有権は強奪され、経験値も減少します!」
「お?」
突然のカリンの声に俺はビクッと身体を震わせる。
「ナビゲーターが教えてくれました!」
「そいつはよかった。というわけで、少し移動しようか」
「はい!」
「採掘ポイントは河川敷にたくさんあるから大丈夫な……はず!」
俺たちは空いている採掘スポットを目指して、川沿いに移動することにした。
「ってか、この河川敷ゴブリン多くね?」
歩きながら河川敷全体を見渡すと、視認できる範囲だけでも30匹以上は生息している。
「わぉ! 見てみて! あそこのゴブリン釣りしてない?」
「釣った魚は食べるのでしょうか?」
「あそこを見た感じ、食べるっぽいな」
視線を変えれば、生の魚にかぶりついているゴブリンの姿も確認できた。
「そして、同じくらいプレイヤーの数も多いね」
「まぁ、カナザワシティから一番近場の採掘スポットになるからな」
「そういえば、カリンは強化する装備品は弓でいいんだよね?」
「ヒ……リヒトもミランちゃん任せたほうがいいって言っていたので、お任せしますー」
「リヒト? ――! あぁ、リヒトね」
リヒト。初めて聞く名前だが、恐らくカリンが出会ったときに言っていた白山市にいる友人のことだろう。
「というわけで、ミランちゃんお願いしますね-」
「あいよ。んで、アオイはどうするんだい?」
「ん?」
あれ? そういえば、何の装備品を強化するか決めてなかった。
「だから、アオイはどの装備を強化するんだい?」
「俺も武器……と言いたいところだが、強化は無理だろうから――」
「ん? アオイの武器って『
「そうだな」
「ちょっと見せてもらっていい?」
俺は腰に差した『千姿万態』を鞘ごとミランに手渡す。
「えーっと、どれどれ……」
ミランは右目を瞑り、『千姿万態』をマジマジと観察する。
「うん。強化出来るよ」
「まじ?」
「まじ。工房にあった初級教本に載ってたんだよね」
『祝福』って強化可能なのか……。嬉しい誤算だ
「ミランが強化出来るのか?」
「+1までだったらうちでも出来るけど……」
何やら雲行きが怪しくなる。
「……けど?」
「素材を揃えるのが大変かな」
「ちなみに、何が必要なんだ?」
「えーっと、アオイの刀の場合は『鉄鉱石』と『3級
「『3級
「わかるよ。教本様々だね。ダンジョンクリアの報酬として獲得出来るって書いてあったよ」
ダンジョンクリア?
「すぐには無理そうだな……」
「そもそも、ダンジョンってどこ? って話だよね」
「そこは知らないのか」
「さすがに鍛冶の教本にそこまでは載ってないかな」
「だよな……。となると、今俺が持ってる装備品だと強化するに値するのはコイツくらいだな」
俺は腕に装着している『鉄の籠手』を掲げた。
「オッケー! それなら、『鉄鉱石』でいけるね」
「そいつは幸いだ」
『千姿万態』の強化がお預けとなった俺は皮肉混じりに苦笑を浮かべるのであった。
◆
川沿いを歩くこと15分。
「あ! ミーちゃん、あの岩はー?」
カリンの指差した先に大きな岩があった。
「ビンゴ! 採掘スポットだね! 周囲に人もいないし、いい感じかも」
「ゴブリンは1.2.3……4匹だし、平気だよね?」
「今のアオイならゴブリンなんてワンパンでしょ? 余裕♪ 余裕♪」
「【雷閃】を使えば一撃だけど……」
「アオイ君、どうしたんですか?」
俺は視界の先に映るゴブリンになにか違和感を覚える。
なんだ? 俺は何に違和感を……――!
「あいつだけおかしくないか?」
俺は1匹のゴブリンを指差した。
「あ! あのゴブリン、ナイフじゃなくて斧持ってます!」
「本当だ! アレはハンドアックスかな?」
俺は右目を瞑り、斧を持ったゴブリンを注視。
(ゴブリンファイターです。危険度は
「あいつだけ、ゴブリンファイターらしいぞ」
「強いのでしょうか?」
「危険度は黄だから平気じゃない?」
「油断は禁物。気を引き締めていこうか」
「はい!」
「おー!」
鉄鉱石を求め、戦闘準備に入った。
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