採掘

「ふむふむ。これが【ステップ】かぁ……楽しいね!」

「足だけじゃなくて身体全体で移動する感じなんだね!」


 ミランとカリンが覚えたての【ステップ】を楽しそうに繰り出している。


「それじゃ、金策を始めるか……んーと、ポムスラ狩りじゃなくてゴブリン狩りでいいか?」


 俺は【ステップ】を楽しんでいる2人に声をかけた。


「あ!? それならもっといい金策あるよ」

「ほぉ」

「金策ならお役立ちできるよーって言わなかったっけ?」


 んー、そういえば、そんなことを言っていたような……。


「で、どうお役立ちできるんだ?」

「テレレテッテレー♪ ――【採掘】!」


 ミランは上機嫌にどこぞのネコ型ロボットの音程を口ずさむ。


「採掘?」

「そそ。鍛冶師範に師事すると得られるスキルが2つあって……1つが【採掘】、んでもう1つが【鍛冶】だね」

「ほぉ」

「ちなみに、鍛冶師範を師事した場合は初心者クエストⅠの内容が鉄鉱石を入手せよ。Ⅱの内容がフレンドを作れ。Ⅲの内容が装備品を作成せよ。んで、Ⅳの内容が作成した装備品を強化せよ、だね」

「ってことは……Ⅳで俺たちのクエストとリンクするのか」

「よく出来てるよね」


 初心者・・・クエストと言うだけあって、クリアが容易になるように運営は様々な工夫をしているようだ。


「えっと……つまり、ミランちゃんの【採掘】ってスキルを使ってお金を稼ぐってこと?」

「採掘ってどこでも出来るのか?」

「んーと、採掘ポイントみたいな場所でしか無理かな。でも、NPCから周辺の採掘マップを購入してあるから、場所はわかるよー。2人には、道中と採掘中の護衛をお願いするよ」

「護衛か……」

「護衛は大切な役割だよ。場所的にも、うちが一人で行くには厳しいからね」

「ほぉ」

「採れた素材は3人で山分けね」

「山分けか。俺はいいが、それだとミランが割りを食わないか?」


 採掘できる場所の情報を提供するのも、実際に採掘をするのもミランだ。それで、報酬が山分けというのは……果たしてどうなのだろうか?


「んー、そうかな? うち的には護衛を募集するのとか面倒だし、今だと報酬の相場も不明確でしょ? それなら、勝手知ったるメンバーでシンプルに山分けってのが一番楽だし、損してるとは思わないかな」

「そこまで言ってくれるなら、ミランの提案を受けるよ」

「私もミランちゃんの提案に賛成です!」

「オッケー、オッケー! それじゃ、たくさんの鉄鉱石を求めて――採掘の旅へレッツラゴー!」

「おー!」


 ハイテンションなミランの掛け声にカリンがノリノリで応えるのだが、


「ん?」


 ミランは不服そうにチラッと横目で俺を見て、


「採掘の旅へレッツラゴー!」


 同じ言葉をもう一度言って、再びこちらに視線を向けた。


 ……言わないよ?


「んー、アオイってノリが悪いとか言われない?」

「どうだろうな? 自覚はあるが、言われたことはないな」

「自覚はあるんだ」


 俺の答えにミランが苦笑する。


「話は変わるが、鉄鉱石が採掘できる場所はどこら辺なんだ?」

「おぉ……本当に180度変わったよ! っと、場所は……うちらの知っている世界で言うと、犀川さいがわだね」

「犀川?」

「そそ、正確に言うと犀川の河川敷かな」

「犀川の河川敷か……ってことは距離的には……」

「2km弱だね」

「んじゃ、さくっと行きますか」

「よーし! 採掘の旅へレッツラゴー!」


 チラッとこちらを見たカリンに俺は首を振って意思を伝えると、


「お、おー!」


 根が優しいのだろう。カリンは笑顔でミランのかけ声に応えたのであった。



  ◆



 道中、遭遇した雑魚を倒しながら進むこと30分。


「うわぁ、話には聞いていたけど……刀を持ったアオイは強いねー」

「でしょ! でしょ! アオイ君、凄いでしょ!」


 素手ではなく刀で戦闘するのを初めて見たミランが感嘆の声を漏らすと、何故かカリンがはしゃぎだす。


「ミランなら気付いていると思うが……強いのは俺じゃなくて武器コレだから」


 俺は腰に差した刀――『千姿万態』を持ち上げ答える。


「その武器の強さもわかるけど……アオイって、リアルで格闘技とか習ってるんだっけ?」

「いや、万年帰宅部のゲーオタだな」

「それにしては、動きが洗練されすぎじゃない?」

ライブオンラインコレもゲームだからな」

「いやいやいや、全然違うじゃん! ライブオンラインライオンってば、ほぼリアルじゃん!」

「たしかに、今まで経験したことがないくらいリアリティ性の高い仮想世界だけど――ゲームだ。ゲームである以上、俺たちの培った技術は確実に活かせる……ってこれは、俺の友人の言葉だけどな」

「ふーん、そんなもんなんだ」

「いざやってみると、そんなもんだったな」

「ゲーオタって凄いね……」

「だろ?」


 ゲームオタクであることは自他共に認めているし、恥じることでもないので、俺は誇らしげに答えるのであった。

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