体術

「ふっふっふ! よくぞ聞いてくれた!」


 俺のふとこぼした疑問を待ってましたとばかりにミランがふんぞり返る。


「さっきチラッと聞こえたけど……ミランの祝福ギフトは生産系のスキルとか?」

「ぐぬぬ……君のような勘の良いガキは――」

「はいはい。要は当たりだな。で、詳細は?」

「え? いきなり乙女の秘密とか聞く!?」

「オッケー、ならいいわ」

「ちょ! もう少し会話を楽しもうよ!」

「で、詳細は?」

「……カリン。コレのどこが優しいの?」


 ミランは本人を目の前にコレ呼ばわりする。


「ふふふ。だって、さっきミーちゃんは『よくぞ聞いてくれた』って言ってたよ。つまり、アオイ君はミーちゃんの気持ちを汲んでくれたんだよ」

「うわっ……ここには敵しかいないの!?」

「で、詳細は?」

「んと、うちの祝福は【ハッピーサプライズ】。うちが作成した装備品には、ほんの少しだけ良い効果を付与されるの」

「え? それってめちゃめちゃ凄いスキルなんじゃね?」

「だよね? うちもそう思う」


 ミランは嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。


「やったね! ミーちゃん!」

「カリン……ミランね! ミ・ラ・ン!」

「あ、はーい!」

「ってことで、どっちにする?」


 ミランは改めて俺の目の前に左右の手に持った鉄の籠手を差し出す。


「ん? 俺が選ぶのか?」

「無駄に時間を浪費するより、アオイがサクッと選んだ方がよくない?」

「なるほど、一利あるな。お言葉に甘えて、こっちかな」


 俺は向かって左側にある鉄の籠手を受け取った。


『鉄の籠手☆ 防御力8 炎耐性E ミランが作成した鉄製の籠手』


「この炎耐性Eってのが、ミランからのハッピーサプライズ?」

「そうなるね!」

「私のはSTR+2が付いていました!」

「今回の大当たりはカリンでしたー!」


 ミランは勝者を示すようにカリンの手を取り、天へと掲げるのであった。


 たしかに……どちらが欲しいと言われたらSTR+2かな。


「うぅ……アオイ君、交換しますか?」

「いや、俺が自ら選んだ結果だ。気にするな。そんなことより、せっかくのミランからの贈り物だ。大切にしよう」

「はい!」

「よし! それじゃ、ポムスラ狩りへレッツゴー!」


 色々と時間を浪費してしまったが、ようやく2日目の冒険が始まった。



  ◆



 メティ、攻撃アシストモードを有効に。


(了解しました。今回は体術ですね。脇を締め、腕だけではなく足、腰、肩を意識して攻撃してみて下さい)


 こんな感じか?


 俺はシュッとくうを殴る。


(腕を伸ばすのではなく、肩を回すことを意識して下さい)


 俺は再びシュッと空を殴る。


 その後も、腰が、足の向きが、体重が、などなど何回も指摘をされ、9回目にしてようやく――、


(ヒット!)


 ようやく、メティのお許しヒットが出た。


「わぉ! アオイ君はひょっとしてボクシングの経験が?」

「いや、今のはナビゲーターに指導を受けた結果だよ」

「え? ナビゲーターってそんなことも教えてくれるのですか?」

「『攻撃アシストモード』って聞いてみ」

「……わわっ!? 本当だ!」


 ってことは……カリンのあのキレイな弓の構えはナビゲーターのアシストなしでの実力なのか……。


 その後、3人でナビゲーターの指導を受けながら5分ほどシャドーボクシングを続けた。


「あはは! なんだかリズミックボクシングだっけ? テレビでたまーにやってるアレみたいで楽しかったね!」

「うんうん。運動で流す汗って気持ちいいよねー」

「それじゃ、そろそろ実戦といきますか」

「「おー!」」


 ふよふよと浮かぶポムスラに近付き、利き手で殴打。続けざまに再度殴打、一度沈んで跳ねてきたポムスラを右手の籠手で受け止め、再度殴打。


 3発殴っても倒せないのか。


 一度距離を取り、再び距離を詰めて殴打すると、ポムスラはようやく光の粒子と化した。


 4発か。


 『千姿万態』で戦うよりも時間はかかるが、苦にはならない。何なら、刀とは違うまったく新しいアクションとして楽しさすらある。


 コレは楽しいな。


 俺は次なる獲物へと襲いかかるのであった。


 2匹目のポムスラを難なく倒し、3匹目となるポムスラが光の粒子と化した、その時。


(【体術】を習得しました)


(【連撃】を習得しました)


 サクッと習得したな。


『【連撃】。素早い牽制のジャブから強烈なストレートを放つコンビネーション。CT5秒』


 ほぉほぉ。


 CT5秒ってあたりが素敵なスキルだ。


「――【連撃】!」


 早速、新たに習得したスキルを唱えると、逆手である右手が素早く空を切り、続けざまに体重を乗せた重い一撃を利き手である左手が放った。


 なるほど、なるほど。


 さすがはスキル。メティから『ヒット!』と呼ばれるまでに成長した俺の殴打と比べてみても、風を切る音の迫力が雲泥の差だ。


 それじゃ、試してみますか!


 俺は近くでふよふよと浮いていたポムスラに襲いかかる。


「――【連撃】!」


 発動早っ!


 目にも止まらぬ速さで繰り出された右のジャブで動きを止めたポムスラに、渾身の左のストレートを放った。


 ポムスラは激しい衝撃音と共に吹き飛ぶが、光の粒子にはならない。


 一撃ワンパンは無理か。


 吹き飛んだポムスラとの距離を詰め、追撃の殴打を浴びせると、ポムスラは光の粒子と化して消え去った。


 なるほどね。


 『千姿万態』――刀とはまた違った戦闘スタイルに楽しみを見出した俺は、再びポムスラに襲いかかるのであった。

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