言い訳
ソロで稼ぎたいけど――ライブオンラインは匿名性が低いからなぁ……。
ライブオンラインはハンドルネームこそ使えるが、容姿はある程度は変えれるが基本はリアルに準拠するし、居住地は市町村まで特定が可能だ。
カノンは見た感じ、同年代なんだよなぁ……。
普通のオンラインゲームでも、地雷プレイや迷惑プレイをするとSNSに晒される危険はあるが……リアルにまで影響が及ぶことはほぼない。
しかし、ライブオンラインはその特性上リアルにまで影響を及ぼす可能性が十分に考えられる。
例えば、オンラインゲームで『昨日まで一緒にパーティーを組んでいたフレンドを誘ったのですが、ソロで遊ぶと断られました』とSNSに書き込まれたしても……叩かれるのは書き込み主になるだろう。
しかし、それが
例えば、カリンが俺のクラスメイトの先輩、或いは後輩、もしくは兄弟、はたまた親友だったら……?
うむ、考えただけで吐きそうだ。
それに、ソロで行ったらカリンの友人であるミランは俺の装備を強化してくれるだろうか?
……っと、ダメだダメだ。俺はさっきからソロではなくカリンと共に行動すべきだと言う――
素直になれ……。
確かに虎太郎とレベル差が拡がるのは悔しい。
しかし、昨日カリンと共に遊んだ時間が楽しかったのも事実だ。
オンラインゲームは最前線にいるから楽しい。
故に、楽しむために効率ばかりを追い求めていた。
しかし、昨日はオンラインゲームに初めて触れたときのような、非効率な部分も含めてゲームをゲームとして楽しんでいた。
そうだ。つまらない、言い訳はやめよう。
「カリン、装備品を強化するためのお金を稼ぎに行こうか!」
「はい!」
俺は改めてカリンを金策に誘った。
「あ! 金策ならうちもご一緒していいかな? お役に立てると思うよ?」
「別に構わないが……」
全員が同じ初期クラスである現状、『お役に立てる』と明言出来るほどメリットのあるパーティープレイができる環境にあるとは思えない。
「ちなみに、アオイは何をして金策するつもりだったの?」
「そうだな……試したいことがあるから最初はある程度のポムスラを狩って、その後は経験値との兼ね合いを考慮してゴブリン狩りかな」
「試したいこと?」
「ちょっとしたスキルの習得だな。んー、でも、これは俺の個人的な要望だから……後でソロでするか」
「ダメです! 絶対に付き合います!」
「お、おう……ありがと」
ふんすと鼻息荒く迫るカリンに俺は後退りする。
「ポムスラでスキルの習得? このゲームって特別な行動でもスキルの習得が出来るの?」
「どうなんだ? 俺の知る限りではないな」
「だよね……って、おい!」
ミランのノリツッコミが決まった。
「うぅ……アオイ君とミーちゃんが楽しそうです……」
「違う、違う、そうじゃなくて……えーい! 面倒! はい! アオイ! 説明!」
「んっと、俺の習得したいスキルは体術スキルだな」
「体術スキルって……コレ?」
「そそ」
シュッシュとシャドーボクシングをするミランを真似して、俺も拳で空を切る。
「何を覚えるの?」
「【ステップ】」
「え? 【ステップ】ってひょっとしてコレ?」
ミランがその場で反復横とびを始める。
「そそ、それ」
「え? まじ? 使えるの?」
「【ステップ】に限れば、武器とか関係なく発動するらしい」
「うっそーん! そういう大切な情報こそ初心者クエストで紹介するべきじゃん!」
「だよな。俺もそう思う」
「うぅ……二人の会話に全然付いていけません……」
盛り上がる俺とミランと対象的にカリンのテンションがどんどんと下がる。
「その情報が事実なら、うちらも習得すべきだね」
「まぁ、どのポジションでも覚えといて損はないな」
「よし! ちょっとここで待ってて! 準備してくる!」
「ん?」
準備? と言おうとしたが、ミランはすでに走り去っていた。
「えっと、えっと……どうなったのですか?」
「んー、素手でポムスラを殴りに行く流れになったのかな」
「えー!? な、なんでですかー!?」
驚くカリンの声が響き渡るのであった。
◇
ミランを待つこと15分。
「んー、ミランちゃん遅いですね」
「準備って何なんだ?」
ちょっとの定義とは、これ如何に?
俺はカリンに【ステップ】の重要性などを説明しながら、突然走り去ったミランが戻るのを待っていた。
「ごめーん! お待たせー!」
ミランがようやく戻ってきた。
「別に大丈夫だけど、何してたのー?」
「体術で戦う準備かな? とりあえず、情報をくれたお礼と、待たせたお詫びと……これからもよろしく! の意味を込めて二人にコレをプレゼントするよ!」
「コレは?」
「鉄の籠手。素手で戦うなら無いよりマシでしょ?」
ミランに抱えているのは鉄で作られた腕から手の甲まで覆うことの出来る防具だった。
「いいの?」
「いいよー。籠手は防具の中で一番コストが安いからね。カリン、どっちがいい?」
ミランはニコッと笑い、左右の手に持った鉄の籠手をカリンの前へと差し出す。
「どっちも同じじゃないの?」
「違うよー。カリンには昨日言ったでしょ??」
「あー! 【ハッピーサプライズ】だっけ?」
「イエース! というわけで、余ったほうがアオイのになるけどいい?」
「あ、あぁ……。しかし、
「うん、いいよ。熟練度を稼ぐ為に生産はやり続けないとダメだからね」
「なるほど、なら今回は甘えさせてもらおうかな」
「アオイ君はどっちがいいですか?」
ミランの好意を受け取る意思を示した俺にカリンが問いかける。
「ミランがさっき言っていただろ? 俺は余り物。選択権があるのはカリンだな」
「むぅ……なら、選択権をアオイ君に譲渡します!」
ドヤッとばかりにカリンは胸を張る。
「まぁ、ミランがそれでもいいと言うのなら、構わないが……この左右の鉄の籠手で何か違いはあるのか? 仕上がりで防御力が変わるとか?」
俺はまったく同じモノにしか見えない2つの鉄の籠手を凝視し、首を捻るのであった。
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