初心者クエストⅣ

 学校を終え、帰宅した俺は早速『ノア』の中に横たわり、ライブオンラインの世界にログインした。


(マスター、おかえりなさい)


 メティ、ただいま。


(本日もよろしくお願いします)


 よろしく。


 さてと、今日は何からしようかな。


(守護者協会へ報告をすれば『初心者クエストⅢ』は達成となります。以上が推奨される行動となります)


 そういえば、報告する前にログアウトしたんだった。報告に行くか。


 俺はカナザワシティに帰還することにした。


 カナザワシティに帰還し、守護者協会に『初心者クエストⅢ』の達成を報告すると、新たに『初心者クエストⅣ』が発生した。


 クエストの内容は――『装備品を強化しよう』


 ここに来て、生産系のクエストか。


 強化したアイテムを装備した状態で報告をすれば達成らしい。


 すでに強化済みの装備品を入手して報告だけしても達成扱いになるんじゃね?


(なります)


 あ、やっぱりなるのか。んで、装備品の強化方法は?


(方法は2つあります。1つはマスターが鍛冶師範に師事し、装備品強化スキルを習得すること)


 自分で装備品強化をすることも可能なのか。


(もう1つは、装備品強化スキルを習得した職人、もしくは守護者さまに依頼することです)


 守護者ってことは、鍛冶師範を師事したプレイヤーのことだろう。ならば、それとは別口の職人と言うのは――NPCのことだよな。


 サクッとNPCに依頼するか。


 サービス開始2日目の今なら、NPCノンプレイヤーキャラクターPCプレイヤーキャラクターで仕上がりや経費に大きな差はないだろう。


 しかし、何を強化しようかね?


 祝福ギフト――【千姿万態】って強化出来るのか? 無理ならば……今、俺が所持している装備品は『異世界の服』と『異世界の靴』のみ。


 んー、いっそのこと強化済みの装備品を購入した方がいいのか?


 とりあえず、職人がいる場所に向かってみるか。


 メティに職人へのナビゲートをお願いしようとした、その時――、


「ども〜! お兄さん、ひょっとして腕の良い職人をお探しかい?」


 赤茶色の髪を後頭部で一房にまとめた――いわゆるポニーテールでツナギを着用した女性に声を掛けられた。


「ん? 俺?」


 周囲を見渡すが、該当する人物は見当たらない。


「イエース! 他に誰がいるかな?」

「なんで俺に……と言いたいところだけど、カリンさんの知り合いかな?」

「――!? な、なんでわかったの……」

「え? だって……あそこの柱の影で不安そうなこちらを見ているから……」


 目の前にいる女性の後方――該当の柱を指差すと、顔を出していたカリンが慌てて柱の後ろに隠れた。


「あちゃー! 我慢できなかったかぁ……」


 ポニーテールの女性がおでこに手を当てて天を仰ぐ。


 俺は右眼を瞑り、ゲームモードにて目の前の女性の名前を確認する。


「それで、ミランさんは鍛冶師範に師事したプレイヤーということでいいのかな?」

「な、な、なんでうちの名前を……!? というのは、無理があるか」

「だな」

「改めまして、うちの名前はミラン。お察しの通りカリンの友人だね。って、おーい! カリン! もうバレバレだから、こっちに来なー!」


 ポニーテールの女性――ミランが大きく手招きすると、柱の影から出てきたカリンがこちらに向かって走ってきた。


「俺の名前はアオイ。ミランさん、改めてよろしく」

「アオイさん、あんたの噂はかねがねカリンから聞いてるよ。よろしくね! あと、うちのことはミランでいいよ」

「俺のこともアオイでいいよ」


 俺はミランの差し出した手を握り返そうと手を伸ばすと、


「はわわわっ!? わ、わ、私のこともカリンと呼んでくださいー!!!」


 伸ばした俺の手を横から掴みとったカリンがぶんぶんと振り回した。


「お、おう……俺のこともアオイでいいよ……」

「は、はい! アオイ君、わかりました!」


 いや、わかってねーじゃん……。


「ってか、カリンの友人って白山市にいるんじゃないの?」

「あ! 白山市の友達はミーちゃんとはまた別の友達です」


 あ、なるほど・・・・・・。だよな・・・・・・普通友達って複数いてもおかしくないよな・・・・・・。


「コホンッ! お二人の相談は終わったかな?」

「あぁ・・・・・・すまん。えっと、話を戻すが……ミランは装備品を強化出来るのか?」

「フフン♪ このミラン姐さんにドンッと任せな! ……と言いたいところだが……」


 ドンッと胸を叩いたミランだが、語尾がどんどんと小さくなる。


「何か問題でもあるのか?」

「素材が全然足りないかな」

「素材?」

「装備品を強化するには、相応の素材が必要なんだ。買ってもいいけど……今の私たちからすると、かなり高額だよ」

「高額? いくらくらいなんだ?」

「例えば……カリンの場合だと、見習いの弓のまま強化しても勿体無いから、見習いの弓を一度分解して鉄の弓に作り変えるのに必要な素材が鉄鉱石2つに……んー、鋳型と使用料はうちが負担すればいっか……」


 ミランはぶつぶつと独り言を言いながら、指折り数え始めた。


「んで、結論は? ちなみに、ミランの自己負担分を含めた必要素材と金額を教えてくれ」

「そうだね、カリンの弓を『鉄の弓+1』にするために必要な素材は鉄鉱石が4つと、後は施設の使用料として200Gだね」

「鋳型とかも聞こえたが……?」

「あぁ……鋳型は使い回し出来るから、大丈夫かな。それを言ったらハンマーとかも入っちゃうよ?」

「なるほど。ちなみに、鉄鉱石は買うといくらなんだ?」

「1つ300Gだね。いずれプレイヤー間の売買が広がれば相場は下がると思うけど……今が一番高騰しているんじゃないかな」


 さすがは生産職を選んだプレイヤーだけある。まともな買い物すらしたことのない俺と違い、相場を調べ上げているようだ。


「ってことは、ミランに対する報酬を除けば1400Gあれば『鉄の弓+1』が作れるのか。ちなみに、『鉄の弓+1』の相場とかはわかるのか?」

「んー、私の知る限り強化済みの装備品を販売しているNPCはいないかな。プレイヤーであっても商店を出しているプレイヤーはまだいないかな……そろそろ出てきそうだけどね。あと、0から作るなら他にも素材が必要となるから……うーん、そうだねぇ……うちが売るなら利益度外視で2,000Gかな」


 なるほど。ミランに頼んだほうが600G得なのか。


 ん? そもそも、俺の所持金って……。


(マスターの所持金は0Gです)


 ――!?


 あれ? この世界ゲームってどうやってお金を稼げばいいんだ?

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