情報交換

 昼休み。


 俺は虎太郎と共に中庭で昼食を取ることにした。


「そういえば、朝方に『すべての武器を試してないのか?』って聞いたろ。あれ、どういう意味よ?」

「そう! それだよ! 蒼空の性格なら絶対にすべての武器を試すだろ」

「まぁ、それには理由があってだな……それより、すべての武器を試すと何か特典でも貰えるのか?」

「いや、何も貰えないな」

「なら、クエストが発生するとか?」

「いや、発生しない」

「は? なら、あの質問の意図は何だよ」


 虎太郎は首を横に振り続ける。


「ライオンってあらゆる意味で今までのゲームとは別次元だろ?」

「そうだな。感覚的には、仮想ゲームじゃなくて現実リアルだな」

「だろ? だから、どの武器が一番合うのか……すべての武器の熟練度を2まで成長させたのよ」

「すべての武器の熟練度を2!? すげーな!」


 昨日、一日中使った俺の刀の熟練度は2だった。


「いやいや、2までは楽勝よ。それ以降はキツそうだけどな」

「それで、結論――あの質問の意図はなによ?」

「俺が『すべての武器を試していないのか?』と言う前に、蒼空は自分が何て言ったか覚えているか?」

「ん? 何か言ってたか?」

「『回避とか無理』と言ったんだよ」

「あー、そういえばそんなこと言ったかも」

「喜べ! 蒼空!」


 虎太郎は立ち上がり、両手を広げる。顔が無駄に整っているから、様にはなっているが……オーバーリアクション過ぎだろ。


 虎太郎曰く、『プロのエンターテイナーたるもの観客を楽しませるアクションを取ることは重要』らしく、オーバーリアクションが癖になってしまったらしい。


「へいへい。嬉しいなっと」

「凄いな……1ミリも心を感じないぞ」

「ありがと。んなことより、話進めろよ」

「しゃーない、蒼空の大好きな結論から言うか。体術の熟練度を2に成長させると、【ステップ】を習得する」

「【ステップ】? ってか武器の熟練度で習得するスキルって武器を変えても使えるのか?」

「ある意味使えないが、ある意味使える」

「――? どういうこと?」

「ふふふ……知りたいか? 知りたいだろ!」


 ある意味使えないが、ある意味使える……?


 たしか、スキルは――名称を詠唱するか、動作を一致させることでも発動する。


 ――!


「ひょっとして、動作を一致させたら武器に関係なくスキルは発動するのか?」

「ビンゴ! 残念ながら発動するスキルは極一部だけどな」

「ほぉ」

「例えば、剣術で覚える【スラッシュ】の動作を一致させても、斧で【スラッシュ】は発動しなかったな」

「なるほどね」

「んで、コレがどの武器種でも発動する【ステップ】だな」


 虎太郎は軽やかな足取りで反復横とびのような動きを見せる。


「おー! すげーな! ゲーム外でも発動するのか」

「まぁな……と言いたいところだが、身体能力の差だろうな……ライオンの中だともっとキレがあるな」

「へぇ。今でも十分キレッキレに見えるけどな」

「とりあえず、【ステップ】を習得すれば口で説明するよりも100倍早くこの動きを覚えることが出来る」

「なるほどね、体術か……。今日あたり試してみるよ」


 ライブオンラインの中なら、スキルの名称を唱えれば、身体が勝手に動いてくれる。口で説明されるのとは違い、文字通り身体で覚えることが出来る。


「おう! 頑張れよ! ちなみに、イエロー以上を相手にすればサクッと熟練度が2になるぞ」

「ってことは、ゴブリンと素手でやり合うのか……」


 刃物ナイフを持った化け物を相手に素手で立ち回るのか……。


「蒼空! ライオンはゲームだ。もっと自分を信じろ」

「だな……。ゲームである以上、遅れを取るわけにはいかないか」

「おう! ところで、さっき言っていた理由ってなんだ? そいつも新たなフレンド絡みか?」

「ん? あー、俺がすべての武器を試していない理由か?」

「おう。それそれ」

「俺の祝福ギフトは武器だったのよ」

「ほぉ、蒼空の祝福ギフトは武器か……意外だな」

「意外?」

祝福ギフトは冒頭にあったあの心理テストで決まるだろ。あの心理テストの精度がどれほどなのかは不明だが……SNSとか見る限り、そのプレイヤーが望んだ、或いはスタイルにマッチした祝福ギフトが贈られるっぽいぞ」


 言われてみれば、昨夜寝る前に巡回したSNSを思い出しても、自分に贈られた祝福ギフトをポジティブに捉えている者が多かった。


「ってことは、虎太郎の祝福ギフトは?」

「大当たりだな」

「ほぉ、その気になる効果は?」

タイプはスキル、名称は【暴風乱舞ぼうふうらんぶ】」

「ぼうふうらんぶ?」

「暴れる風に乱れる舞だ」


 暴風乱舞。


「怖い字面だな。んで、効果は?」

「攻撃を回避する度に、10秒間STRが5%伸びる」

「ほぉ……度にってことは?」

「ビンゴ! 10回避ければ50%アップだ!」

「10秒で10回も攻撃されるか?」

「まぁ、現状だとよくて3回だな。しかーし!」

「ほぉほぉ」

「なんと、【暴風乱舞】にはレベルが存在しており、現在のレベルは1だ!」

「つまり、成長の余地があると?」

「ビンゴ! 時間が伸びるのか、効果が伸びるのか、はたまた両方か! 発動条件は俺のプレイスタイルとマッチングしているし、腐ることがない祝福ギフトだな」


 この様子、よほど嬉しかったようだ。


「確かに、虎太郎――『幻影ファントム』のプレイスタイルとはマッチングするな」

「だろ! だろ! んで、蒼空の祝福ギフトは?」

「んー、タイプは武器。名称は【千姿万態せんしばんたい】だな」


 虎太郎の先程の言葉をテンプレートにして答える。


「せんしばんたい?」


 先程、虎太郎は……『暴れる風に乱れる舞』と言っていたな。


「千の姿に万の……態?」

「――? よくわからん」

「だよな……。えっと、千円札の千に姿かたちの姿。一万円の万に、態度の態だな」

「……なるほど。よくわからんな。で、効果は?」

「えっと……『形を変えてあらゆる局面に対応することが出来る神より授かりし武具』だったかな?」

「お? なにそれ? 武器の形状が変わるのか?」

「いや……どうだろ? 変わるのか?」

「おい! なんで張本人の蒼空が疑問形なんだよ!」


 そういえば、『千姿万態!』とか唱えたことないが……まさかのアクティブスキルなのか?


「とりあえず、現状でわかっているのは攻撃力が高いだけの刀だな」

「へぇ。攻撃力はいくつなんだ?」

「30」

「ほぉ……初期なら高い攻撃力ともいえるが……イマイチだな」

「まぁ、なんか隠された力があると信じて使い続けるさ」

「蒼空――伝説の『正体不明アンノウン』ならハズレ祝福ギフトでも問題ないだろ」

「いやいや、勝手にハズレ認定するなよ!」


 怒る俺を見て、虎太郎は楽しそうに笑う。


「っと冗談はこのくらいにして……蒼空」

「ん? どうした?」

「俺の勘……というか周囲の状況から察するに、ライオン――ライブオンラインは確実に覇権をとるゲームになる」

「確かに、技術だけ見ても他のゲームとは一線を画しているな」

「それだけじゃない。プロ――言い方を変えればビジネスとして存在しているチームも、所属プレイヤーがライオンをプレイすることを推奨している節がある」

「へぇ。虎太郎から見れば願ったり叶ったりじゃん」

「他にも海外からトップクラスのプロゲーマーたちがライオンをプレイするためだけに来日しているって噂もある」

「大きな大会でも開催するのかね?」


 昨今はeスポーツ文化が大きく発展しており、国際的な規模の大会になれば、賞金だけでも億単位の金額となっていた。


「どうだろうな? 大会とかそういう話はまだ俺の耳には届いていないが……俺が言えることは――ライオンは近い将来覇権を取るゲームになる。蒼空がプロになる、ならないは別として将来の選択肢を増やすためにも真剣にプレイすることをオススメするぜ!」


 プロゲーマーね……。


「まぁ、プロとかは置いといても、やるからには真剣にプレイするさ」


 熱量ある虎太郎の言葉に対し、具体的な将来が見えない俺は軽い返事をするのであった。

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