vsゴブリン②

 振り下ろされるボロボロのナイフを視界に捉えながらも、足が竦んで動かない。


 ――ッ!?


 恐怖から目を瞑り、来るべき痛みに備えるが……来ない?


 ――?


 恐る恐る目を開けると、キラキラと輝く光の粒子とポタリと地に落ちた矢。


「大丈夫ですか!」


 振り返ると、カリンがこちらを心配する表情を浮かべながら駆け寄って来た。


「あ、あぁ……大丈夫。助かったよ。ありがとう」


 どうやら間一髪のところでカリンに助けられたようだ。


「本当に大丈夫ですか? 少し休んだほうが……」


 このリアル過ぎるゲームは顔色や細かい表情まで反映するようだ。俺の顔を覗き込んだカリンの表情が曇る。


「大丈夫、大丈夫。本音を言えば、さっきはめっちゃ怖かったし、今も少し……少しだけ恐怖を引きずっているけど……大丈夫」

「無理はしないで下さいね」

「そうだな。無理はしない。ちょっと調子に乗ってた」


 ここまで上手く行き過ぎていたのだろう。俺は慢心していたようだ。


「私もアオイ君との冒険が楽しすぎて、浮かれていました。お互いに気を引き締めて頑張りましょう!」

「ありがとう。で、ここで1つ提案なんだけど」

「はい、何でしょうか?」

「簡単な作戦を練ろうか」

「ふむふむ。どのような作戦でしょうか?」

「俺もカリンさんもゴブリンを一撃で倒すのは無理だ」

「はい……アオイ君はともかく私は全然です……」

「でも、【雷閃】とカリンさんの攻撃。或いは【パワーショット】と俺の攻撃だったら倒すことが出来る」

「ふむふむ」

「だから、次からはカリンさんが矢を放ったゴブリンを俺が【雷閃】でトドメを刺して、カリンさんが【パワーショット】を放ったゴブリンを俺が通常攻撃でトドメを刺す」

「むむ……つまり、攻撃のきっかけは私になるのですね」

「俺から攻撃してもいいが、そうすると反撃を受ける可能性が――」

「はわわわ!? ち、違うのです! そういう意味ではなく! 喜んで役割を全うします!」


 カリンは慌てた様子で手をパタパタと振る。


「作戦と言うにはあまりに簡易的過ぎるけど、交互にスキルを使うことでクールタイムの調整も出来るから、効率は悪くないと思う」

「いいと思います! アオイ君の作戦で頑張りましょう!」


 5分後。


 作戦は見事に功を奏し、あっという間に11体のゴブリン討伐し『初心者クエストⅢ』のノルマを達成した。


「あっという間でしたね!」

「カリンさんのお陰かな」

「えー、そんなことないですよー! アオイ君のほうが全然凄いですよー!」

「いやいや、攻撃の起点になっているカリンさんの貢献度はかなり高いよ」

「えへへ……アオイ君にそこまで褒められるとなんだかくすぐったいです」


 カリンは少し赤面しながらも、嬉しそうに笑った。


「っと、リアルだと……もう1時なのか」


 『端末』を操作すれば、こちらの世界――ゲーム内の日時と、現実世界の日時が確認できる。


 1時と言うことは……【ライブオンライン】にログインしたのが20時だから……現実世界で5時間。少しだけログアウトはしたが、こちらの世界で15時間ぶっ通しでプレイしたことになるのか。


 1日のログイン制限時間は――8時間。つまり、残り3時間分はログイン出来るが――


(マスターの世界の時間で0時になると、顕現時間の制限はリセットされます)


 え? そうなの?


(はい)


 ってこと、今日ログイン出来るのは残り7時間か。


 本日は生憎の木曜日。あと、7時間もしない内に登校だ。


 今無理をしても意味ないか。


「そろそろ、終わるか?」

「わわっ! もうこんな時間!? 今日はありがとうございました!」

「こちらこそ」

「明日からもよろしくお願いします!」

「ん? あ、あぁ……よろしく。それじゃ、おやすみなさい」


 アグレッシブな挨拶だな……。


 まぁ、カリンとパーティーを組むのは苦痛じゃない……どころか、不思議と落ち着く。今後もパーティーを組むのはありかな。


「はーい! アオイ君、おやすみなさい!」


 元気に手を振るカリンを見ながら、『端末』を操作してログアウト。


 こうして、【ライブオンライン】の一日目を終了したのであった。



  ◇



 

 名前  アオイ

 ライフ ☆☆

 ランク ペーパー

 レベル 4

 クラス ノービス

 HP  100/100 

 STR 19

 MAG 6

 VIT 13

 AGI 13

 DEX 16

 MEN 13


 ATK 49

 DEF 16


 スキル 千姿万態(1)

     刀術(2)

     →青龍の型

     →朱雀の型

     →雷閃


 所持金 0G


 装備品 右手  千姿万態

     左手

     頭

     体   異世界の服

     腕

     足   異世界の靴

     装飾品

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る