vsゴブリン①

 腰に差した『千姿万態』を抜き、【青龍の型】を構え、ゴブリンを見据える。


「アオイ君……」


 いつもより緊張を含んだ声でカリンが俺の名を呼ぶ。


「もう少し下がっても、届く?」

「はい。大丈夫です」


 カリンは俺の位置から4歩ほど下がる。


「常に敵との距離を意識して……俺が『撤退』と言ったら、一目散にカナザワシティへ逃げてくれ」

「わかりました」

「んじゃ、いってみようか。先制の矢を頼めるかな?」

「はい!」


 カリンは大きく息を吸い込むと、凛とした姿で弓を構え、力強く弦を引き絞り、


「――【パワーショット】!」


 心地よい風切り音と共に放たれた矢はゴブリンの頭に命中。ゴブリンはふらふらと蹌踉よろめいた。


 お! ヘッドショット!


「ナイス!」

「ありがとうございます!」


 思わず出た称賛の声に、カリンは笑顔で応える。


「ギィ!」


 ヘッドショットに成功したんだから、倒れろよ……。


 残念ながら存命していたゴブリンは、錆びたボロボロのナイフを振り上げて、こちらに向かって来た。


 俺は刀の切っ先をゴブリンに向け、意識を集中。


 ん? こいつ……俺を見てないのか。


 よく見ればゴブリンの殺意に満ちた目は俺を通り過ぎ、後方のカリンに向けられていた。


 ヘイトか……? 


 頭では理解していても、ここまでリアルに感じる世界で露骨に無視をされるとイラッとするな。


 俺は『千姿万態』を持つ手に力を込め、通り過ぎようとしたゴブリンの胴を撫で斬ると、


「ギャ!?」


 胴を両断されたゴブリンはか細い悲鳴をあげて、光の粒子と化した。


(【刀術】の熟練度が成長しました。【雷閃らいせん】を習得しました)


(ゴブリンは消滅しました。5の経験値と『ゴブリンの腰蓑』を取得しました)


(レベルが上がりました)



「……倒せたのですか?」

「みたいだな?」


 あまりの呆気なさに俺とカリンは呆然としてしまう。


「危険度イエローと聞いていたのですが……これもアオイ君の祝福ギフトのお陰なのでしょうか?」

「んー、その影響もあるかもだけど……どうなんだろうな?」


 死闘! まではいかなくとも、もう少し苦戦はすると思っていた。


「ポムスラさん5体分の経験値は凄いですね」

「効率を考えるなら、ポムスラよりもゴブリンの方が美味しいな」

「では、ターゲットをゴブリンさんに変えますか?」

「カリンさんがいいなら、そうしようか」

「はい!」

「っと、その前に少し時間貰ってもいい?」

「はい、大丈夫ですよ。どうしました?」

「さっき、熟練度が上がって新しいスキル覚えたから、確認したいなっと」

「――! アオイ君、おめでとうございます!」

「ハハッ、ありがとう」


 カリンは満面の笑顔でパチパチパチと手を叩いて祝ってくれた。


「それじゃ、少し失礼して……」


 俺はカリンに断りを入れ、端末を操作する。


『【雷閃らいせん】 【青龍の型】専用スキル。雷の如き素早き刺突。CT30秒』


 説明を読み終えた俺は【青龍の型】を構え、


「――【雷閃】!」


 スキルを唱えた。


 すると、俺自身が一本のイカズチと言わんばかりに一蹴りで前方へと駆け、限界を超えるほどの勢いで肩を、肘を、手首を前へと伸ばすと、


 ――ヒュッ!


 動作から一息遅れて、風切り音が耳へと届いた。


「わぁ! 凄い! 凄いです!」


 俺は少し離れた位置でぴょんぴょんと跳ねているカリンに軽く手を挙げる。


 えっと、CT――クールタイムが30秒だから……【雷閃】を再度使うには30秒置かないといけないんだよな。


 CTを確認する方法ってないのか……?


(私に聞いて頂ければ、お答え致します。現在、【雷閃】のCTの残り時間は4秒です)


 メティに毎回聞くしかないのか?


(【ゲームモード】を起動し、スキルを意識することでもCTを確認することが可能です)


 【ゲームモード】か。俺は右眼を瞑り、スキルを意識。すると、視界の右下にスキルの名称が書かれたアイコンが浮かび上がった。


 なるほどね。便利な機能だ。


「お待たせ。ゴブリン狩りを再開しようか」

「はい!」

「あ! 俺から先に攻撃してもいい?」


 せっかくスキルを覚えたのだ。一撃ワンキルできるのか試したくなるのはゲーマーの性だ。


「いいですよー」

「倒しきれなかったら、トドメよろしく!」

「はい!」


 準備は整った。


 カノンと共にゴブリンを探して周辺を探索すること、1分――サクッとゴブリンを発見した。


 向こうはこちらにまだ気付いていない。


 息を殺し、ジェスチャーでカリンにゴブリンの発見を告げる。続けてアイコンタクトを送ると、カリンは弓を構えて神妙な面持ちで頷く。


 奇襲を仕掛けたいが、構えを維持したままだと難しい。


 俺はゴブリンがこちらに気付く位置まで移動し、【青龍の型】を構える。


「ギィ!」


 こちらに気付いたゴブリンが、ボロボロのナイフを振り上げ、向かってきた。


 まだだ……まだだ……。


 俺は向かってくるゴブリンに全意識を集中し、間合いを測る。


 ――!


 ココだ!


「――【雷閃】!」


 一蹴りし、雷と化し、突き出した『千姿万態』の切っ先がゴブリンの喉元に突き刺さった。


 シャッ! 手応えあり!


 確かな手応えを感じたが……


「ギィ!」


 え? 嘘だろ……。


 喉を貫かれで絶命したと思われたゴブリンが最後の悪あがきと言わんばかりにナイフを俺の肩へと振り下ろしてきた。

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