第3話「浪梅組」
「さて。着いたよ、兄ちゃん。お代は40ドルだ。」
「ああ、ありがとう。」
長時間の運転にも関わらず、軽快な顔をして見送ってくれる気の良いドライバーに小さく頭を下げ、優は目の前の旧市街へ目をやる。
「相変わらず寂れている癖に見た目だけは賑やかなところだなぁ...」
日本区のエリア4。エリアインファイブ、つまりはかつての日本に於ける首都圏の中心、東京の成れの果てだ。新暦になり、風空が誕生してからは過疎化が進み、現在では居住者は一部の浮浪者や旧型のヒューマシーンくらいである。また、彼らの占める人口も多いわけではない。
つまり、ここは時代から置き去りにされた廃墟まみれの都市なのである。この状況は、エリア4のみならず、エリアインファイブや近郊の複数のエリアでも同様だ。
そんなスラムのような廃墟には、時々暴走行為を大規模に行う武装集団がいる。
「浪梅組のせいで最近は仕事がかさんで大変だ」
「さてと...【
優がキーワードを唱えると、彼の腕に巻かれていた無機質な時計が姿を変え、空中にディスプレイとして浮かび上がる。【プロトコル:アシスチル】。これは、数十年前にヒューマシーンを作り上げた科学者集団『ムーンノヴァ』が、同時期に開発した『現実拡張認識可能性プログラム』である。特殊な人工衛星の観測データと、プロトコル使用者のデバイスが周囲環境から蓄積したデータが共有されて相互にリンクすることで、まるでその場所をそのまま縮小したジオラマのようなデータの砦を画面上に作り出すことが出来る。軍事官達はこれを用いる事で、相互に密着した連携や、文字通りネズミ一匹すら見逃さない子細な走査を可能にしている。その微細さは、旧暦のそれとは比較にすらならないほど高性能だ。
優が慣れた手つきで仮想キーボードに打鍵し始めると、すぐにプロトコルが応答する。
『マスターアカウントによる使用要請……承認。対応衛星Mark.3にデータの提供を申請……承認。デバイスの動作確認……オールグリーン。』
『【Protocol:Assistil】起動完了。これより、マスターの要請に従い、対象を浪梅組組長及び組員、走査レベルを国庫バンクデータを使用したDNA及び指紋痕の照合に設定、前方半径13kmを走査開始します。』
『...一時走査完了。ここから4km、3時の方向に組員と思われる反応多数あり。組が所有する根城の1つと推定、これを目的地としてマップ上に経路を生成。プロトコルを待機状態に移行します。』
「了解。今回は早かったなぁ。それじゃ、向かうとしようか。」
誰に話しかけるでもなく独りごちて、優は廃墟を進み始めた。
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