第2話「軍事官」
「これは...セラの、希望の光なんだね。」
「え? 光? ...うわあぁ!? なにこれ!? 私なんで光ってるの!?」
セラが自分を纏う光に驚き、光が自分を覆っている事を確かめるようにぱたぱたと歩き回っていると、すぐに光は消えてしまった。
「あ、消えた...」
光は消えたが、それが持っていた温かみはまだ辺りに漂っていた。
「...セラ。君に話さなくちゃ行けないことがある。僕の研究の、夢の果てについて。」
「...夢の果て? 優の研究の目的って、四国四方の支配を止めるためじゃないの?」
四方四国とは、この世界を実質支配する4人の富豪が建てた国々を纏めた呼び名だ。優やセラの住むこの風空では
「うん、確かにそうなんだけどね。もう一つだけ、やり遂げなきゃならないことがあるんだ。」
「それが、優の目的?」
「そう。これは2年と少し前、セラと出会うほんの少し前の話だ。」
……………………………………………………
「行ってらっしゃいませ、マスター。」
「...ああ。」
最低限の武装を身に纏い、高級感を感じさせるアンティークな調度が施された玄関。それを退屈そうに一瞥し、優は家を出る。
東国の首都、風空京の中央区近郊の軍議場閣。優はこの場で、議員兼戦闘補佐官という二足の草鞋を縛り付けられていた。
仕事という概念が廃れつつあるこの時代に於いて、未だに職を持ち、日夜働くなどという奇行をする人間など、全世界に三桁程しかいない。
ではなぜ優はここで働いているのか、理由は簡単である。怠惰なこの世界にも、いや怠惰であるからこそ、慣習、つまりは篠田家が代々風空の軍事官であるという拘束が変革されることなく残っていたのである。
無論、これは例外中の例外だった。風空に於いても、ほか三国に於いても。そもそも、いくら慣習のなくならない劣悪な情勢であろうと、その意義や必要性を失ってしまえばそれを保つことなどできない。
軍事官という仕事は、ヒューマシーンのいるこの時代であっても必要性がまだ残っていた。それがなぜかは、この国の統帥であるラファにしかわかりようのないことだ。
軍事官という仕事は、現在風空にしか存在しない。ほかの三国は、類似した役割をヒューマシーンが負ったり、そもそもそれがシステムに組み込まれていない、という国もある。
とにかく、軍事官としての優は、日々閉塞感を感じ続けていた。
「今日のタスクは辺境の調査と反乱分子についての対応会議か...」
「はぁ。この仕事をしてもう5年かぁ。過ごしてきた時間は随分とあるはずなのにな」
「何にも覚えてることなんてないや」
ぼやきながら彼はヒューマシーンの運転するタクシーに乗り込む。
「お客さん珍しいねぇ。
「まあね。とりあえず、日本区のエリア4まで頼むよ。」
「日本区ぅ? そりゃまたへんぴなところへ行くんだねぇ。しかもエリアインファイブたぁ、相当モノ好きだね?」
「仕事で行くだけだよ、僕だって行きたくはないさ。」
「積極的にはね。」
「ふぅん、大変なんだね。そんじゃしがないドライバーの出血大サービスだ、飛ばしてあげよう!」
こうして優を乗せたタクシーは走り出したのであった。
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