第1話「邂逅」
「たくさんある...ぜんぶ"少年ジャンプ"って書いてある!」
建物の残骸の中に、多くの木片や割れたタイルとともに散らばる少年ジャンプ。
セラはその中の一冊を手に取り、1ページ目を捲る。
「どれどれ? "
……………………………………………………
「ふうっ! そろそろ一段落ついたかな。さて、ご飯を作らなきゃ」
「セラ、ご飯の時間にしようか」
「あれ...セラ?」
いつもなら彼女は、日が暮れる前には帰ってきて、後ろでじっとわくわくとした顔でご飯ができるのを待っている。集中している優は、話しかけても気づかないことが多いからだ。
セラがいない。それを意識した瞬間に、家の中が重苦しく、寒々として感じられた。
「セラが帰ってきてない...っ!」
時計を見る。窓の外はもう太陽が地平線に沈みこんでいて、空を薄い紫が覆い始めている。
扉を乱雑に開ける。走り出す。汗が噴き出る。
(こんなことは今までなかった! セラがっ、こんな時間になっても帰ってこないなんて...セラが今日行ったのはS地区だ。再び倒壊した建物に巻き込まれたのかもしれない!)
「セラ! どこだっ!? セラっ!」
かつてないほど必死に愛用のバイクを跨ぎ、乱暴にギアを上げる。
(砂嵐が強い! このままじゃ視界が覆われて何も見えないっ...)
目の前は、極東の地にはおよそ似合わない竜巻のような風と砂塵で溢れていた。
しかしその時、優の目に一瞬、眩い光が瞬いた。巻き上がる砂埃など邪魔にすらならないほどの眩い、眩い光であった。
そして、優にはその一瞬で充分だった。
「...セラ?」
光には、暖かみがあった。それはこの退廃的な、怠惰に染まりきった世界の中に希望を与えるような暖かみだった。
優は光のあった方へ歩くと、仄かな光を湛え続けるセラをその目にやつした。
「セラ!」
「わっ! びっくりしたっ! なんだぁ、優かぁ...わぷっ!」
「びっくりした、じゃないよ! こんな時間まで帰って来ないで! 心配したんだよ本当に!」
セラはきょとんとして、本当に平和な顔で優を見つめた。
「もう...まったく。こんなところで何してたの?」
「ん。見て!」
セラは、廃ビルの残骸の中に積まれたジャンプから一冊を手に取り、優に差し出した。
「これは...旧暦のころあった雑誌だね。こんなところに遺産があったのか」
「そうなの。とってもおもしろくてね、読んでると胸がぽかぽかどきどきしてくるの!」
いつの間にか消えていた光が、またセラの全身から淡く溢れ出した。
セラの顔には、希望が満ち満ちていた。
「この海って言うところに行ってみたい。船っていうのに乗ってみたい。こんなに大きなお肉なんて食べたことがない! 財宝って、どんなものなのかな?」
「ねえ、優。私、この世界のこと、もっと知りたい! もっと、ここに書いてあるもの、見てみたい、行ってみたい!」
セラがあふれ出す思いを吐き出す程に、彼女を包む光は強さを増していく。それはさながら...
(まるで、オーラでも纏っているようだ)
「これは...セラの、希望の光なんだね」
この日この時、新しい希望の光が、娯楽を忘れた世界に誕生した。
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