第4話「入口」

「進みにくい場所だなあ、空気も悪いし」

 

 腰に掛けた筒状の装置から展開させた二輪バイクに乗り込み、崩れたアスファルトや、風化した街路樹の中を進む。そうしているうちに道路の残骸が減って行き、目的地に到着した。


「これが浪梅組ろうめぐみのアジトかぁ」

 

 周りの埃や落書きだらけのビル群とは違い、その建物だけがよく掃除されていて、継続的に管理、整備されているのが伺えた。暴力団の、それも下っ端が使用していると思われるアジトが、目立つことを許容してでも綺麗に保たれている事に奇妙さを感じながらも、優はアジトへ足を踏み入れた。


「ん...お。待ちな兄ちゃん。ここに何か用かい? 関係者でもないのにこんなとこに来るたぁ、感心しねえな?」


 無機質で真っ黒いサングラスを額に掛けた柄の悪いスーツ姿の男が、建物の入り口で優を呼び止める。


「どうも、感心されなくても結構だよ。今日は話し合いをしに来ただけだからね、とりあえずは。...ここは老梅組の拠点かい? もしそうなら、ここで一番地位の高い人に会いたいんだけど」

「あぁん? 確かにその通りだが。地位の高い、だぁ? なんでぇ一般人がそんな...」


 言いながら、男は目を細め、優を見つめながら額の真っ黒なサングラスを付け直す。


(サングラス付けて見えやすくなるのかな...)


 そう思いながら見つめ返していると、男は合点がいったようにサングラスを額に戻しながら、優を見てはっきりとした口調で話し出した。


「成程、手前てめぇ政府側の人間だな? それなら1つ、質問に答えてもらおう」


 先程までの飄々とした雰囲気を保ちながらも、その眼光は鋭く冷えていた。

 

「答えようによっちゃあ、あんたをここから先に入れることは絶対にねぇ」

「そんな事言われてもね。悪いけど、僕も暇じゃないし、これは仕事だ。わざわざ君に入れて貰う必要はない。」

「つれねぇなぁ。でもダメだぜ、ここは俺達の領域テリトリーだ。力づくで止める手段なんて幾らでもある」

「...確かに、楽に抜けさせてはくれなそうだね」


 小さく溜息を吐きながら、優は改めて男と向き合う。


「わかってくれたようで何よりだ。俺達がお前に聞きたいのはたった1つ」

 

 優が眉を少し動かす。刹那の緊張が走ると、男は口を開いた。


「あんたは市民の味方か?」

「...!」


 面食らったように目を見開く優に、男はさらに捲し立てる。


「簡単だろ? 自分が政府の犬なのか、仁を持った軍人なのか。早く答えてくれ。言い訳は通用しねぇぜ」


 優は少し迷ってから、判然としない口調で答えた。

 

「...僕は、なりたくて軍事官になったわけじゃない。進んでやってる訳でもない。言えるのは、それだけかな」


 優の言葉を聞いて、男は尚も不安そうな顔をしていたが、少し考える素振りをしてから口を開いた。


「ふぅん...なるほどな。わかった、あんたのいう通りにしてやる。但し、仕事としてじゃねぇ」


 男は、確固たる信念を感じさせる力強い口調を貫きつつも、口角を僅かに上げた。

 

「俺達はお前自身に用があるんだ。付いてきな、ウチの頭領に会わせてやる」

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