第9話 勝負でもしてみない?
あのデート……じゃなかった。買い物をした日から、優芽さんは私によく話しかけるようになった。元々色々な人と関わっていたはずだが、今は私しか見えてないんじゃないかって勢いで話しかけてくる。
周りも、そのことに薄々感づいているようで、一部では優芽さんが麻音さんから、私に乗り換えたんじゃないかっていう噂まである。まぁ、噂は噂なんだけどね。
そんなわけで、今も目の前に優芽さんがいる。現在は昼休み。私は購買でパンを買ってきて食べている。優芽さんと麻音さんは毎日お弁当を持ってきているようで、色とりどりの具材が入ったお弁当箱を広げている。
「月島ちゃんって、いつも購買だけど、自分で作らないの?」
「あ~、そうだね。あんまり料理得意じゃないし」
優芽さんは意外だったのか、とても驚いた顔をしている。いくら容姿がよくても、できないものはできないんだよ。元々男だし、料理に興味なんてなかった。というか、家事全般があまり得意じゃない……はず。女の子になったと同時に、家事が得意になったとかじゃなければ。
「それじゃあ、私が毎日お弁当を作ってあげる!」
その言葉に私だけでなく、となりの麻音さんも驚く。そして鋭い視線がこちらに突き付けられる。ひしひしと伝わる「了承しないわよね?」という圧。
さすがに申し訳ないし、麻音さんに何をされるかわからないし断ろう。
「あ、ありがたいんだけど、優芽さんの負担もあるだろうし遠慮するね」
「あ、うん……ごめん」
めっちゃ露骨にしょんぼりされる。これには麻音さんも対応に困っている様子。でも今更撤回するのも……う~ん。あ、そうだ。
「じゃあ、3人で交換し合わない?といっても、私はあんまり料理得意じゃないから大したものは作れないけど」
「いいね、それ!!」
優芽さんは乗り気だが、どうにも麻音さんにはあまり響かなかったらしい。麻音さん的には、優芽さんの料理が食べれるいい機会だと思ったんだが、微妙だったかな。
と思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。
「それだとつまらないわね」
「つまらない、とは?」
「勝負でもしてみない?料理の腕で」
勝負……?私、めっちゃ不利なんだけど。てか、なんか不敵な笑みを浮かべてるし、罰ゲームとかつけられそう……
「あぁもちろん、罰ゲームもあるわよ。一番下手だった人が一番上手だった人の言うことを何でも1つ聞く、でどうかしら?」
麻音さんの発言に、優芽さんの目がキラキラする。そりゃそうだよね。私が圧倒的に下手だろうし。しかも、麻音さんの自信満々っぷりからすると、麻音さんも料理得意な気がするし。
いや待て。そもそもおかしくないか?
「誰が一番を決めるの?」
採点者には公平な人が必要であるが、そんな人が知り合いにいるだろうか。てかそもそも、負け試合をしたくないのだが。
「それなら、委員長にでも頼もうかしら。委員長?ちょっと来てくれない?」
麻音さんが少し大きな声でそう言うと、クラス委員長がこっちへ向かってきた。茶髪のおかっぱで眼鏡をかけている、いかにも真面目そうな委員長。正直、こんなことに付き合わせるのがかわいそうである。
「はい、なんでしょう?」
「私たち料理対決をするのだけれど、その採点役になってくれない?」
そんな簡単に了承するわけがない。いくら麻音さんが美少女だからといって、二つ返事で了承するなんて
「いいですよ」
「……え?」
「ありがとう、日程は……そうね。1週間後にするわ」
「わかりました。楽しみにしていますね」
そう言って彼女は自席へ戻っていく。あまりに自然な流れに何も言えず、呆けていた私は、席に座った彼女を認識して初めて意識を取り戻した。
「いや、いやいや待って待って。早くない?展開早くない!?」
「何を言っているの?特に否定しなかったあなたが悪いじゃない」
い、いやまぁ、何も言わなかった……言えなかったけどさ。でもまさか、委員長があっさり了承するなんて。なんだろう。ここ最近、今までの印象がどんどん崩れて言っている気がする。
「それじゃあさっき言っていたけれど、1週間後、勝負をしましょ」
すっごいにこやかな笑顔を浮かべる麻音さん。それに続くように笑顔になる優芽さん。2人とも、勝ったらどんなことをさせようか考えているのだろうか。
あぁ、1週間後が憂鬱だ。
どうも、私は名もなきクラス委員長です。そして、
ですが、最近内部分裂が起こっています。その原因が、最近転校してきた月島白という人物です。この月島さんが2人の百合に介入したことによって、2人の崇高な関係を状態を維持しようとする現状派と、美少女3人の百合で、一粒で3度おいしいという改革派、そのどちらにも属さない中立派に分かれています。ちなみに、私は中立派です。
自己紹介が長くなりましたが、本題に戻したいと思います。何やら料理対決をするらしく、その採点役に私が抜擢されました。親衛隊としては、直接的な介入はしたくありませんが、どこの骨の馬ともわからぬ輩に任せるよりかは安全だと思いました。
それにしても
「月島さん、綺麗だったなぁ」
正直、近くで見るまでは美しいなくらいにしか思っていませんでしたが、近くで見ると、より一層綺麗でした。それはもう、目を奪われるような透き通った髪に、きめ細やかな肌、そして可愛い声。「最高」の一言に尽きます。あの綺麗さ、可愛さでは、改革派の意見も納得できます。というか近くにいるだけで、こっちが惚れそうになる雰囲気を醸し出していました。
と、いけませんね。私は親衛隊。そばから見守ることが使命です。ですが、そうですね。改革派への乗り換えは検討してみましょう。
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