第8話 デート……じゃなくて、買い物行かない?

 今日の授業も終わり、席で少し羽を伸ばしていると、優芽さんが私のほうに近づいてきた。


「あ、あの!今日これから時間ある?」


「えっ、うん。あるよ」


 のけ者にされていた優芽さんが、朝とは打って変わって少し積極的になっている。実際、休み時間は毎回話しかけられたし、一緒にお弁当を食べないかと、わざわざこっちを向いて食べてきた。しかも、全部麻音さんは放置である。少し、麻音さんがかわいそうであるが、それほど1人にされたくなかったのだろう。


「じゃあさ、デート……じゃなくて、買い物行かない?」


 うん、今完全にデートって言ったよね。めちゃくちゃそういう気だよね。まぁ、隠そうとしているみたいだし、何も言わないけどさ。


「んーっと、なんか欲しいものあるの?」


「いや、そうじゃなくて!ほら、月島ちゃん、こっちの街のことあんまり知らないかな~って!」


 そうだねぇ。私が、本当に転校してきた月島白だとしたら知らないね。でも優芽さんの前にいる美少女は、元々月島白雨なんだよなぁ。街を案内するされるどころか、ぼろが出る可能性があるから嫌だな……

 でも、すっごいキラキラした目をしてるし。さすがにここで断るのは、なんか悪い気がする。優芽さんだって、善意で言ってくれているんだし。


「いいよ。あ、でも財布持ってないから、一回家寄ってからでもいい?」


「もちろん!!じゃあさっそく、レッツゴ~!」


 そう言いながら、優芽さんは私の腕を引いてくる。元気がいいなぁ、この子は。




「あ、私の家ここだから。少し待っててね」


 私の家に着き家に入ると、そこにはすっごい笑顔の氷雨さんがいた。


「おっ、おかえり白雨。それで?外にいる美少女は誰だ?私が食べても……」


「氷雨さん、やめてください。クラスメイトですから」


 さすがに見境がなさすぎます。せめて息子……いや、今は娘か。娘のクラスメイトには手を出さないでください。それに、まだ優芽さんには会ってもないのに。


「はぁ……氷雨さんの女たらしはいつになったら治るんでしょうか」


「無理だよ。無理無理。てか、外で待たせるのはかわいそうだろ。家に上げてやれば?」


「あぁ大丈夫です。財布とったら行きますので」


「あいよ。気をつけてな」


 財布を取ってから玄関を出ると、そこには優芽さんだけでなく、時雨もいた。どうやら、ちょうど帰ってくる時間だったらしい。

 様子を見るに、2人とも仲良く話しているが、たまに時雨が敵意を見せている。初対面であろう人に敵意を見せるのはよろしくないと思いつつ、それを緩和する優芽さんの雰囲気に賞賛してしまう。これは、一種の能力なのではないかと思う。


「優芽さん、おまたせ。それに時雨、あんまり威嚇しないの」


「あっ、月島ちゃん。大丈夫ですよ、妹さんとは仲良く話していましたので」


 仲良く、ねぇ。私には、敵意を向ける時雨と、それをかわす優芽さんに見えたんだけどなぁ。まぁ最も、優芽さんにその自覚はないようだけれど。


「じゃあ時雨。少し買い物に行ってくるから」


「おにぃ。早く帰ってきてね」


「ふふっ、わかったよ」


 時雨のブラコン具合も、少しかわいい。それだけ大切にされているということなんだろう……っといけないいけない。またいつもみたいに感慨にふけるところだった。今は優芽さんとの買い物をしなくては。

 そうして私たちは、駅前のビルに向かっていくのだった。




「わぁ……!!このアクセサリーかわいい~!!あっ!こっちもいいなぁ!!!」


 私はこの日、身に染みて感じた。女の子の買い物は長いことを。

 もうかれこれ、2時間はこのアクセサリーショップにいる。めちゃくちゃ長い。いやわかるよ?どれもきれいだし、どれも素敵だよね。でもさ、長くない?


「ねぇ月島ちゃん!!どれがいいかな?」


 見た目が美少女になったとはいえ、中身は男。アクセサリーの良し悪しなんてわかるはずもない。でもここで意見しないのも、それはそれでどうなのか……まぁ、自分がいいと思ったものを信じよう。


「じゃあ、こっちがいいかな」


 私が選んだのは、アメジストが真ん中にあしらわれたネックレス。たしか、アメジストには癒しという意味があったはずだし、ネックレス自体が優芽さんにとても似合っているように思えた。


「わかった!じゃあ買ってくるね!!」


 元気よくネックレスを買いに行った優芽さん。ちらっとレジを見ると、そこには1万と数千円が。高校生の私たちがポンと出せる金額ではないのだが……優芽さん、アルバイトしてたっけ。

 少しの衝撃を受けつつ店の前で待っていると、優芽さんが戻ってきた。胸には、先ほど買ったネックレスがついている。


「おまたせ~!」


「似合ってるよ、ネックレス」


「えへへ、そうかなぁ……」


 それから私たちはいろんなところを回った。元々は私を案内するという名目だったはずなのに、いつしか優芽さん自身が楽しんでいたのは、内緒である。


「ん~!一通り回り終わったし、そろそろ帰る?」


「そうだね。もう暗くなってきたし、帰ろっか」


 方角を確認すると、私の家とは逆方向だった。そんなわけで、私たちはその場で解散することにした。今日の買い物が楽しかったのか、優芽さんは笑顔で人込みへ消えていく。

 私も今日は楽しかった。あ、そういや時雨に早く帰ってきてねって言われてたな。結構遅くなっちゃったけど……どう言い訳しようか。

 その後、時雨に怒られたのは言うまでもない。

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