第2話 うちの妹はどこかおかしい

 とりあえずシャツだけ着て1階へ降りると、テーブルで義母と時雨が待っていた。私の家族構成は義母と義妹だけなので、これが日常風景である。

 義母は自由な仕事をしているらしく、たまに外に出ることはあるが、基本的に家で仕事をしている……らしい。らしいというのは、私は実際、義母が仕事をする風景を見たことがないからだ。どうやら、私と時雨が学校に行っている間に仕事をしているらしい。

 時雨は私と同じ高校の1年生。私は2年生なので、1つしか年が変わらない。ちなみにめっちゃ可愛い。少し茶色がかった髪のボブヘアーで、身長は変わらないくらい。綺麗とか、美しいというよりかわいい。めっちゃかわいい。シスコンといわれるかもしれないが、それでもかまわない。なんなら、嫁にしたい。でも、私いま女の子だから嫁にできない……くそっ!日本よ、同性婚を認めろ!!


「へぇ、随分と可愛くなったねぇ」


氷雨ひさめさん。な、舐めまわすように見るのはやめて欲しいです……」


 義母が変態オヤジのような視線でこちらを見てくるが、これには理由がある。義母はレズなのだ。しかも、かなりの面食い。とにかくかわいい子には目がない。さらに義母自身も美貌を保っており、ギリギリ20代といっても許されるくらいにはきれいであるため、今でも数人食っているらしい。


「お母さん?おにぃは私のですから。取らないでくれませんか?」


「おぉこわいこわい。ささ、白雨はくう。ご飯だよ」


 名前を呼ばれて席に座ると、生暖かい目でこちらを見てくる氷雨さん。そして、こちらをチラチラ見ながらも、少しよそよそしい態度の時雨。ひどいよ時雨。私は姿が変わってもお兄ちゃんだというのに……

 いや、それにしても氷雨さん。受け入れ早すぎません?私、姿かたちが変わったんですけど。昨日までの私じゃないんですよ?時雨の反応が正しいと思うんですけど。


「あ、そうだ白雨。あとでその無駄にでかい胸揉ませて」


「朝っぱらからセクハラはどうかと思いますよ。それに義母とはいえ、息子を狙わないでください」


「けっ!今どきの若いもんは身持ちが固いねぇ」


「氷雨さんが緩いだけです」


 まぁ、氷雨さんに関しては、私がかわいいからという理由で何でも許されそうではあった。しかし、流石にここまであっさり行くと、男のころの私が大切にされてない感じがして、少し悲し……くないわ。美少女最高。今までの私、グッバイ。


「ところでおにぃ、学校はどうするの?」


「へ?」


「だってその恰好のままじゃいけないでしょ?」


 確かにそうだ。今までの白雨という生徒はもういない。いたとしても私が消す。まぁとにかく、この美少女姿じゃ、白雨として登校するのは難しいだろう。


「よし、それは私に任せておけ」


「氷雨さん?大丈夫ですか?しっかりできますか?」


「お前は私を何だと思ってるんだ……まぁ、今日明日くらいは家にいておけ。手続き等は私がやる」


 あれ、氷雨さんってこんなに使える人だったっけ。もっとポンコツで、それこそ外に出るだけで体力が尽きるようなくそ雑魚義母だった気がするんだが。それに酒癖が悪くて、いつも私たちに絡んでくるし。あれ、なんか、わが子が成長したかのような微笑ましさを感じる。これが……母性?


「おにぃ、だまされないで。氷雨さんはおにぃという美少女を自慢したいだけ」


「ぎくぅ!!」


 うっわ、わかりやす。めっちゃ図星です見たいな反応するじゃん。なるほど。美少女自慢をしたいと。ほうほう、いいでしょう!私も、この自慢の美少女を自慢したい!!ここは少し、氷雨さんの思惑に乗りましょう!決して私が、自分の容姿を自慢したいというわけではないですが!!

 というよりも、これから生きていく上で、さすがに学校には通っておいたほうがいいからね。ぜひともお願いしたい。


「氷雨さん、とりあえず手続きはお願いしますね。その間私はニートになります」


「ん?ニート?何を言っているんだ?白雨はこれから、私のTechniqueテクニックで体を隅々まで……ぐふふ」


 いや、ただのキモイおじさんみたいになってますよ。あと、妙にテクニックの部分が英語っぽく発音してて気持ち悪い。中年おっさんみを感じます。


「氷雨さん?」


「ひぃ!!時雨!!!わかった!じゃあ、時雨が帰ってきてから一緒にしよう!!」


「そういう問題ではありません。おにぃは私が責任をもって堕とします」


 時雨ぇぇぇ。ありが……ん?おとす?はて、落とす、墜とす、堕とす…………


「ほーうなるほど。では時雨、頼んだよ」


「!!ありがとうございます、氷雨さん!!さっ、おにぃ。私が帰ったら覚悟してね♪じゃ、学校行ってきまーす」


 そういって玄関から出ていく時雨。取り残された私と氷雨さん。私は若干の恐怖を感じながら氷雨さんの方に向くと、そこには満面の笑みがあった。


「白雨、時雨が帰るまでに、せいぜい抵抗できるように準備しておくんだな」


 私は今日初めて、貞操の危険を感じた。初めてが美少女になった初日に危険を感じる環境はどうかと思うが……とにかく


 うちの妹はどこかおかしい。そう感じた1日だった。

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