秘密の救助者たち(6)

 「何か、問題でもあるんですか?」 


 尋ねた俺を、津上先生は眠たげな眼で見上げた。


 「ああ。そもそもそいつは、誰がどのようにして作ったのかも分かっちゃいないんだ。おかけで適合者しか使えないくせに、その条件も一切不明。異空災害だけじゃなく、対抗手段まで謎が多いっていう、面倒臭いことになってんだよ」


 そう言って、津上先生は小さく右手を挙げて見せる。怠そうに姿勢を正しつつ、しかしほとんど変わらない体勢に落ち着いてから、俺のカードに向けたペン先で机を軽く叩いた。 


 「それともう一つ。現在の適合者は、お前と林藤を含めて全部で……四人。全員がこの学校の生徒、つまり子どもだ」


 「……え」


 目をしばたかせる俺の前で、津上先生は鳥の巣を思わせる髪に指を突っ込み、僅かに口の端を歪めた。


 「散々探し回ったが、結局大人の適合者は見つからなかった。しかも去年辺りから、深暮市内で異空災害の発生件数……それも、人が巻き込まれるケースがやたらと増えてやがってな。……このまま放っといたら、何人犠牲になるか分かりゃしねえ」


 気だるげながら、隠しきれない苛立ちが声に滲む。どちらかと言えばあまり感情を表に出さない津上先生が、こんな声を出すのは珍しい。


 「だから、お前らに頼る他ねぇんだよ。子どもに人命救助させてるなんて知られたら、厄介なことになるのは目に見えてるから、大っぴらには言えねぇけどな」


 確かに、と思った。そもそも異空災害の存在なんて、きっと誰も信じてくれない。信じて貰えたとして、子どもが命をかける状況を受け入れられる人なんているのだろうか。


 でも、助ける人がいなくなれば、巻き込まれた人は死を待つ他なくなってしまう。

 その中には、雛香ちゃんたちのような幼い子どもだっているというのに。


 「……美代は、いつからこんなことを?」


 「去年の、四月の終わり頃くらいだな。入学式の直後に“レディアントハーツ”が反応を示して、協力を頼んだんだ」


 「れでぃ……?」


 「林藤のADRASの名前だよ。水中での活動に特化してんのが特徴だな」


 津上先生が美代へと目を動かすと、美代はスカートのポケットに手を入れた。


 引き出された手には、俺のものとよく似た板が握られていた。美代はそれを、テーブルの上へと静かに横たえる。俺も手にしていたカードを目の前に置き、視線を左右に動かして二つを見比べてみた。


 じっくりと観察してみても、中心の光の色ぐらいしか違いが分からない。鮮やかな赤い光を放つ俺のものとは違い、美代のカードの中では柔らかいピンク色の光が鼓動のように瞬いている。


 「ちなみに、お前のそれは“エクセルセイバー”。もう知ってるだろうが、空中での活動に向いているようだな……俺の知っている限りでは、の話だが」


 「それは、どういう……」


 「言ったろ、謎が多いって」


 少々面倒臭そうな雰囲気を感じ取って、俺は肩をすくめた。やっぱりどこか取っつきにくい人だと思いつつ、俺はちらりと美代へ目を向ける。

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