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僕は、兄貴と恋人を亡くした。柚木店長先生によると、恐らく解離性健忘っていう極度のストレスからくる病気で、記憶が一部欠落してしまったらしい。D.GreenのCDを聴いて、見て、記憶が戻った。その場に黄くんがいることも要因になっていたと思う。黄くんは、こんな僕の横にいて更に辛かったのではないだろうかと胸が苦しくなった。
黄くんと号泣した次の日に、僕たち4人の家族に会いに行った。みんなとも、また号泣しながら抱き合った。抱き合う習慣は僕の母親が起源らしい。
「だって、温まるでしょう?」
それが理由らしい。
それから2回春を越した後、黄くんの家で一緒に住むことになった。黄くんのお家に転がり込むような形ではあったが、すごく居心地の良い家だった。シェアハウスから持ってきたものも多いらしく、見覚えのあるものばかりだった。防音室を作り、2人が使っていたギターやベースも、黄くん自身が愛用していたドラムセットも置かれていた。
「作ったはいいものの、ドア締めるの怖くて防音室の意味なくなってたんだよね。」
そう黄くんは笑っているけれど、手は震えていた。
「じゃあ僕らの秘密基地にしよう。ここで、絵を描いてもいい?」
「いいね!秘密基地!もちろんいいよ。」
黄くんは、また音楽活動を再開することにしたらしい。楽曲提供がメインらしいけれど。
「蒼くんとユニット組みたいな。」
「僕何するの?絵を描く?」
「ありだねぇ。でも歌ってよ。蒼くんの歌、俺好きだよ。」
「えぇ、恥ずかしいよ。でも要くんと兄ちゃんの歌聴いてた人に言われちゃうとな……」
「ダメ?やってみようよ、別に表に出さなくたっていいし、自己満で。家族にだけ共有するくらいの感じでさ。」
「ん〜……。」
「ヤダ?」
「いや、ユニット名考えてる。」
「乗り気だね、嬉しい。」
黄くんはこういう時に、犬のような尻尾が見える気がする。目をキラキラさせながら、僕の次の言葉を待っている。
「Be.g《ベグ》ってどう?」
「見た目良さげだけど、どんな意味?」
「Deep GreenでD.Greenだったでしょ。」
「そうだね。」
「要さんの黒、兄ちゃんの空色、黄くんの黄色を合わせてあぁなったからさ、次は緑になるじゃん?」
「ん?なるほど?」
僕は、[はじまり/D.Green]のジャケットと新しく描き上がった絵並べた。
「黄くんの黄色と、僕の蒼色を合わせたら緑になるんだ。」
「確かに!!本当だね!」
「でも、混ぜない。敢えて混ぜないんだ。モネに倣ってた感じだね。」
「あぁ、色を交互に置いて遠くから見たら違う色に見えるやつね!前に蒼くんが教えてくれた。」
「そう、それそれ。」
加えて、緑は癒しや平和を表す色でもあるからね、と補足した。僕が黄くんと居られる、この時間を表すなら緑だ。
黄くんは目には薄ら涙を浮かべながら壁にかかったギターとベースを見つめている。僕はその横顔に釘付けになっていた。
僕らは、ミニアルバムを作ることにした。完成がいつになるかはわからない。どんなコンセプトかも決まっていないし。ただわかっているのは、最高な作品になるであろうこと。
「まだ何もしてないけどさ、完成が楽しみだね。」
「黄くん、すごく嬉しそうだね。」
「蒼くんだって良い顔してるよ!写真撮っちゃお〜。」
僕らのこれからが、始まった。
第三章 終
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