2

 僕は、ゆっくり眠っていたらしい。目を開けると、外はとても暗くなっていた。まだ意識が朧げな中で、懐かしいサウンドが聴こえた。意識が徐々に現実へと吸い寄せられて行った。

 耳から音楽が流れてくる。なぜか涙が流れた。

「佐伯くん、おはよう。よく眠れた?」

「あの、この曲、知ってる……。」

優しい声音に食い気味で言葉が出てくる。

「あ、そ、そうなんだね。クリスマスソングの方がいいかな、それとも最近俺がハマってるジャズとかにしようかな。」

柳さんの焦っている声は初めて聞いたかもしれない。赤信号で急かせかとCDを仕舞おうとしていた。

「僕がやりますよ。」

「あ、いい、大丈夫。」

その手からケースを半ば強引に取った。荒々しくしてしまって、柳さんを驚かせてしまったかもしれないが、なぜかそうしなければならない気がした。

「あ、あ、あ、あ、」

ジャケットを見ると、淡い色の組み合わせの抽象画。その色たちが目に飛び込んできた瞬間に脳内を血管の中を細胞が思考が駆け巡る感覚。歯車が猛スピードで回って火が出ているような、何かがこじ開けてくるような感覚。知らない感覚と知らない情報が頭を駆け巡る。気持ち悪い、気持ち悪い……。


 そして、謝らせてしまった。柳さん……いや、黄くんに。黄くんは悪いことをしていない、僕が暴走しただけだ。

 海を見よう、と走っていた車は、もう赤レンガのすぐ側まできていた。黄くんは、駐車場に車を停めた。

「佐伯くん……いや、蒼くん」

「……」

「抱きしめても、いい?」

僕の返事を待たずに、僕を包み込んだ。嗅ぎ覚えのある懐かしい香りが、鼻をこじ開けるように入ってくる。

「蒼くん、ごめんね、ごめんね。俺が、俺が1人で行けばよかったんだ。俺があの日調理担当じゃなくて、俺が買い物に行ってたら、そしたら、蒼くんが兄貴と恋人を2人同時に失うなんてことなかったんだ、俺が、俺が、」

「そんなこと、そんなこと絶対に言わないで!!」

気がついたら黄くんの頬を両手で強くおさえていた。きっと後にも先にも発したこともないような、はっきりした言葉と声が出た。

「黄くんが、そんなことを思う必要、ない。確かに、兄ちゃんを世界一尊敬しているし、要くんは世界一愛していたけれど、黄くんのことだって世界一の癒しで大好きなんだから!!誰がいなくなったって嫌なんだから!!だから、もう二度と、二度と言わないで!!」

 2人で抱き合って耳が無くなりそうなほど大きな声を上げながら、生まれたての子供のように泣いた。

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