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 僕は、僕は、ぼく、は……


 動悸が止まらない、荒い息遣いさえも耳には届かない、自分の発する息さえ遠い。


 苦しい、苦しい、くるしい……


 身体中を何かが駆け巡り続けている。これは何だ?何がこんなにも僕の中を騒がしくしているんだ?何が起こっているんだ?僕は、僕は、ぼくは……。


 知らない方が良かったのかもしれない、でも一度聞いてしまったらもう耳に脳に喉に目に、焦げ付いてしまった。痛い、苦い、辛い……。


 その手は確かに知らない手ではないようだった。ぬるま湯に浸かるような優しさに、いまは突き放したくなっている。その手が震えているのがわかる。大袈裟にも感じてしまうような震えが、焦げ付きを無理やり剥がそうとしている。


「僕は……僕は、あなたは、誰なんですか?」


 あぁ、これは夢か。あのいつもの夢を見ていたはずなのにな。顎まで涙が伝っている感覚があった。涙を流したのはいつぶりだろう。夢の中なのに、泣きすぎて目の奥が痛い、頭が痛い。こんな苦しい夢から解放されたい、とぐっと掌に力を入れる。強い痛みを感じた。

 

「ごめんね、ごめん、ごめんね……。」


 その手の主は声を震わせながら何度も繰り返している。時々自分のものではない嗚咽も感じた。



第一章 終

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