第10話

異世界で最初に手に入れたスキルが『ログボ:トイレットペーパー』だった件。

この怒りとも、困惑ともいえないこの感情をどう処理すればいいのか。


そうこう思い悩んでいると、ハクが先ほど俺が投げたトイレットペーパーを持ってきた。

ペットか。いやペットだったわ。


「シレン! せっかくのログボになんてことをするのじゃ!」

「おまえもうログボだったら何だっていいじゃん。そこら辺の石にログボって書いて渡してやろうか」


正直、トイレットペーパーにログボという価値を感じていないのだが。


「それにトイレットペーパーから始まる異世界生活なんて高レアなのじゃ。お主が好きそうな高レアイベントなのじゃ。一パーセントの狭間を越えたのじゃ」

「越えた先が希望の見えないディストピアなんだが?」


「何がそんなにも不満なのじゃ。そりゃちくわで満足するそなたならこのトイレットペーパーの芯はちょっと大きすぎると思うのじゃが…」

「そういう意味じゃねぇよ! というか、ちくわでやってないからな!」

「わかった、わかったなのじゃ。誰にも言わぬから安心するのじゃ」

「何一つ理解してねぇし、勘違いした母親の目で見るんじゃねぇ!」


このペット母親面しやがる…。ペットなのに…。


「というか、そもそもなんでこんなスキルがあるんだよ。おかしいだろ」


何でこんなスキル作ったんだよ。

大体誰がログボでトイレットペーパーを6ロールも欲しがるんだ。

絶対そんなにもいらねぇじゃん。


一日三回便意に襲われてる民か。ニッチすぎるだろ。

ハズレなしのガチャでハズレ用に作ったスキルみたいじゃねぇか。


「そりゃレビューに従った結果じゃ」

「レビュー? あの転生者レビューってやつか」

「そうなのじゃ。これをみるのじゃ」


ハクがそういうと俺のスキル画面にレビューが表示された。


これは…。



転生ネーム:チーレム勇者ヤリヒト

レビュー:異世界マジでトイレ事情最悪 アプデキボンヌ。


キボンヌ…。


「チーレム勇者ヤリヒトは勇者召喚された学生の勇者じゃ。こやつはとんでもなく強くて、そして女たらしでの。彼は世界各地の魔王を1000人切りし、その傍らで世界各地のおなごを100万人ぎりし、最終的にはそれらの子供を養い育てるために学園を作り、学生から学園長へとランクアップした勇者じゃ」

「とんでもないな。というか100万人って、ヤリヒトの子供だけで国作れるじゃん」

「実際、最終的には育てた子供たちと協力して国を作って国王となったのじゃ」

「文字通りの国父かつ建国の祖か」


チーレム勇者ぶっ飛んでるな。


「それでこやつの意見は一つの基準となっておっての。彼の死後の転生者レビューはスキル作成の参考によくされておるのじゃ」

「ふーん。なるほどね」

「それで作ったのがスキル;トイレシリーズなのじゃ」

「いや、なんでだよ! 発想の方向性が90度おかしいだろう!」


トイレの定番魔法って浄化魔法とかじゃなかったっけ?

あとは土魔法とか植物魔法とかか。


なんでそっちで作らなかったんだ。


「開発したのはログポ:トイレットペーパーや、スキル:いつでもウォシュレット、トイレ召喚(工事現場)、などじゃ」

「…それ需要あったの?」

「なんかクレームばっかなのじゃ。レビューに従ったし、願いに沿った形でがんばって作ったのになんなのじゃ」

「そりゃそうだろ」


とはいえ、このスキル神何かがずれているな。

…まさか酒飲みながら作ったとかじゃないだろうな? ありうる。




ほかのレビューもみてみる。


レビュー

スキル:いつでもウォシュレット。

いつでもお尻の穴を濡らすことができる。


…濡らしてどうする。


転生ネーム:性天騎士団団長ナイト。

評価:★☆☆☆☆

マジでこれはゴミスキル。ケツ濡らしてなにがしたいんだ?

これつくったやつアタオカだろ。俺の魂の容量がただケツを濡らすスキルに使われてると思うと余計に腹が立つ。


どうでもいいが、なんかレビューの名前に時代の変遷を感じるな。


しかし、レビュー自体はごもっともなレビューだ。


輝かしい異世界転生を迎えたはずなのに、ケツのためのスキルをみたのならスキル作成した奴に対して殺意がわくだろう。



「これ、スキルのリセマラってできるの?」

「無理なのじゃ。そんな機能つけ取らんし」

「まじかー」


流石に無理だったか。


「次のガチャはいつ引けるの?」

「しばらくは無理なのじゃ。もしくはそのスキルが欲しい人を見つけないといけないのじゃ」

「…このスキルが欲しい人っているのか?」

「それを探すのが面白いと思って作ったのじゃ」

「面白いって…」


もともとはハクが趣味用に作ったスキルみたいなものだったな。

趣味で作るなら勝手にすればいいと思うが、それが自身の命にかかわるとなると全くもって笑えない話だ。


ん? 待てよ?


「つまり俺はしばらくの間、このまんまスキルがこのログボだけの状態?」

「なのじゃ」

「つまり俺は異世界でトイレットペーパー生産機始めましたって状態?」

「なのじゃ!」


…え? あれそれってどうなるんだ?

ほぼ何のアイテムもスキルもない状態で魔物ひしめく異世界に放り出されたんだよな、俺は。


「…あ! あれ、金は?」

「金?」

「ほら! 最初の所持金だよ! 俺はいくら持ってるんだ?」


俺は腰や胸にあるポケットを探ったが、そこには何もなかった。


「どこにあるんだ?」

「え、ないのかや?」

「え?」

「…あの閻魔忘れておったのじゃろうな」


ここにも酒の恨みの影響が…。


「う、嘘だろ。俺…無一文で、所持品はこれだけで、この異世界を始めろと? 古の勇者だって王様から銅貨100枚もらったのに、閻魔は0?」

「残念だったのじゃ」


地面に手をついてうなだれる俺の肩をハクがポンポンと叩いた。


このままではまずい。なんとか、なんとかしなければ。

異世界ライフ。それを失敗で終わらすわけにはいかない。


何としてでもの状況を打破してやる。


「やるしかねぇ」

「む? どうしたのじゃ?」 

「俺はこのままだと、トイレットペーパー製造機として異世界ライフを終えていずれ爆発してしまう…」

「い、いやそうはならぬよう妾も当然協力するからな。妾もスキルの雄志が見たいし」

「何が何でもこのトイレットペーパー、売りさばいてやる。そうすればスキルをほしいってやつも出てくる、はず!」

「お、おう?」

「そして速攻で別のスキルを手に入れるのだ!」

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