第9話


「何はともあれスキルか」


俺の武器であるスキル。

このスキルの扱い次第で俺の異世界ライフの趨勢が決まる。


スキルを誤って取得した際にハクから簡単な説明を受けてはいたが、詳細はまだ見ていない。

一度すべてを確認しておくか。


「ええっと、どうやってスキルを確認するんだっけな」

「は! スキル!」

「ん?」


スライムみたく顔が溶けていたハクがスキルの話を聞くとともに復活して、顔がきりっと元にもどった。

なんかペットが復活したぞ。廃人限定の蘇生呪文を編み出したかもしれない。


「シレンよ! スキルを確認するのじゃ! はよう!」

「お、おう」


ハクが必死な様子でこちらにしがみついた。

腕をつかんで揺すってくる。


やべぇ。なんかかわいい。だめかわいいって感じがする。

ペットを飼うってこういうことか。


いや、これはいかん。だまされてはならぬ。

こいつは飲兵衛で借金神でガチャ廃神という現代のだめな社会人の代表みたいなやつなのだ。

心を鬼にせねば。


コホンと一息ついて意識を切り替え、スキル表示を意識すると、目の前にうっすらと画面が現れた。


そこにスキルが書かれていた。


「ええっと、スキル名『捨てる神あれば、拾う神あり』だったな」

「そうじゃ! 中々に洒落ている名前じゃろう! 妾が一生懸命に考えたのじゃ!」

「名前は洒落てるかもしれないけど、これって要はゴミスキル運用スキルってことだろう?」


転生時に受けた説明はそんな感じだったよな。


「ゴ、ゴミなんかじゃないのじゃ! これらは神からたくさんの愛をもらって生まれながらも、価値を理解せぬ凡俗共によってきしくも低評価がついてしまった哀れなスキル達なのじゃ! お主! スキルの気持ちを考えるのじゃ!」

「スキルになったことがないので、スキルの気持ちなんてわかるわけがねぇ」


この「捨てる神あれば、拾う神あり」というスキル、元々はこのログボ中毒者のハクが使う為のスキルだった。


ハクはスキル転生を担当している神であり、そしてスキル作成の神でもある。

そんなハクが作成したスキルだが、レビューにおいて低評価がついてしまうスキルを何度も作ってしまう。


その低評価スキルをまとめて一つにして使えるようにしたのがこのスキルだ。

これで低評価がついたスキルを集めて、世界を追放された際に使おうとしていたらしい。


なんというか神が持っていそうなスキルではある。

それが、酒に酔って押し間違えたせいで俺のスキルになってしまった。





このスキルになったのもあまり残念だが、同時にスキルに自身が持つ不満などの悪い感情が溜まってしまうようになった。

溜まりすぎるといずれなんか爆発するらしい。


だからそうなる前にスキルを使いそうなやつに譲渡する必要があるんだと。

とんでもない異世界転生になったものだ。



「まぁ、それでも色んなスキルが沢山使えるなら、それはそれで面白い…かも? あれ、何もないぞ。何で今俺が使えるスキルはないんだ?」


スキルボードを見ても、スキルは最初の「捨てる神あれば拾う神あり」しか表示されておらず、他には何も表示されていなかった。


てっきり、大量に使えるスキルがずらっと並んでいるリストが表示されと思ったのだが…。



「ふふん。最初から全部使えるようにしたらつまらないと思ったからな! だからの少しずつ開放するようにして、なおかつ解放する手段はガチャにしたのじゃ!」

「え? またガチャ?」


「そうじゃ! 下界に追放された際には、最初はその世界が真新しくて見るものすべてが新鮮に映るじゃろう? じゃがの、それもしばらくすればマンネリ化するのじゃ。 だからそんなときに刺激を与えるために、解放手段をガチャ! ガチャにしたのじゃ! これならドキドキワクワクな異世界生活を無限に楽しめるのじゃ!」


「のじゃ、ってなんじゃそりゃ! それだと次に使えるスキルわからないじゃないか! 元々外れの集まりなスキルなのにさらに外れ引いたらどうするんだよ!」

「そのときは残念だったのじゃ。妾が優しく肩たたいて慰めてあげるのじゃ。残念賞にしてはお得なのじゃ」


ピキッ!

俺は思わずハクの顔を横に引っ張った。


「なああああにがお得じゃあああ!!!」

「い、いたいのじゃ! やめるのじゃ! 頬が!妾の柔肌がちぎれるのじゃ!」





ーーー


涙目で赤くなった頬を押さえて揉むハク。

揉むたびに頭の上の耳が若干上下に揺れている。


「シレンは前世でペットとか飼ってなくてよかったの。絶対に虐待で炎上しておる」

「動物愛護法にハクとかいう借金飲兵衛ガチャ廃神は含まれていないから大丈夫だ」

「ぐぬぬ…」


もう一度スキルをみる。

そこには確かにガチャのボタンがあった。

ご丁寧にハクの姿でガチャボタンを指さしながら「ガチャを回すのじゃ!」というアイコンまでついている。


ちょっとかわいいのが微妙にむかつくな、このアイコン。

さっきだめ可愛いとか言ったけどそれはなしだ。


「ガチャ。最初のガチャ。これからの運命を決めるガチャ」

「ふふん。本当なら妾が引きたかったのう…。ガチャをひく瞬間。この瞬間に出る脳汁のために生きておると言っても過言ではないのじゃ」


廃人が何か言ってるわ。


「ここは魔物が出る世界なんだ。絶対に魔物が倒せるスキルがいい。低評価スキルといえど、倒せる奴がないって決まったわけじゃないんだ。使い方次第でいけるスキルなんていくらでもあるはず」


俺が祈りを捧げるように言うと、ハクが言った。


「そうじゃ! ログボ! 絶対にガチャでログボを出すのじゃぞ! 妾はログボがなければ禁断症状で死んでしまうのじゃ!」

「ログボ? でるのはスキルだけじゃないのか?」

「いろんなのを詰め込んでおるからの! それにログボで魔物を倒せる奴が出るかもしれんのじゃ」

「不安要素がさらにマシマシだが、ガチャを目の前にしたら引かざるを得ない」


ガチャを押すのは国民の義務の一つ。

いやもう死んでるから国民じゃないけど。


意を決してガチャのボタンを押す。


ガチャの演出はなく、すぐにスキルが表示された。

そこに書かれていたのは…。


「ログポ:トイレットペーパー6ロール(ふんわりダブル)?」


「おおお! ログボを引き当ておったな! 大当たりじゃな!」

「え?」


まじでログボが当たったのか。流れ的に来るかなとは思っていたけれど。


うん、それで。

そのログボでもらえるのがトイレットペーパー?


トイレットペーパー? なんだっけ、それ?


俺は早速手に入ったログボを取り出す。

手に入れた瞬間に理解したのだが、ログボで手に入れたアイテムはそれ専用のアイテムボックスに入り、そのアイテム限定で出し入れが自由となる。


意識すれば、俺の手にそれは出てきた。


目の前に出てきたのはスーパーや薬局でよく見たトイレットペーパーだ。正確にはトイレットペーパー6個をビニールで一つにした固まり。


俺は太くて白い筒をみる。

この物質は白い紙でできているようだ。


ああ、トイレットペーパーってトイレで使う紙か。


あまりの衝撃に意味消失してたわ。

そりゃそうだ。トイレで使うトイレットペーパー以外にトイレットペーパーが存在するわけがない。



そうか。なるほど。


意気揚々と降り立った異世界。

そこで初めて手に入れたアイテムがこの薄い紙の塊…。


「ふにゃあああ!!! これがログボ! ログボ!」


傍らでめちゃくちゃはしゃいでらっしゃるハクが見えた。

この世の楽しみが目の前にものにすべて詰まっているかのような表情だ。


それを俺はとびっきりの笑顔で眺める。


俺はビリビリとビニールをやぶり、そこから一つ、トイレットペーパーをむんずと掴んだ。


そして投球フォームをとった。

ワインドアップ。

片足でたって、足を軸に180度回転。

俗に言うトルネード投法。


「トイレットペーパーで…」

「ログボじゃ! む? どうしたのじゃ? そんな野茂英雄ばりの構えをとって?」

「どおおおおやって!!!! 魔物倒すんじゃあああああ!!!!!」

「ログボオオオオ!!!!!!!」


全力で投げ込まれたトイレットペーパーが裏通りの彼方へと飛んでいった。



異世界の裏通りで理不尽を嘆く叫び声が響いた。

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