TP

第8話

前回、俺は妙なスキルを得て転生した。

それについて俺はいろいろ思うところはあったが、それでも納得したつもりだ。


異世界生活の始まり、新たな人生の幕開け。

そんな思いと共に俺は転移した。


そして今、まっすぐに死へと向かっていた。


「ぎゃああああああああ!!!!!!」

「ログボオオオオオオオ!!!!!!」


風が強く吹いていた。


落ちている。

俺は今、成層圏からまっすぐ地上に向かって落下していた。


服がバタバタと音を鳴らし、口を開けば空気があふれんばかりに入ってきて、頬をブクブクと振動させた。


「何で落ちてるんだよおおおお!!!!!!」


あの鬼畜閻魔、俺をはめたのか?!

ひょっとしてすぐに来来世を迎えさせる為に一瞬で殺しにきたの?


転生する際に、カップラーメン2個で新しい人生ができあがるとかいってたけど、これだとカップラーメン一個で来世の出来上がりだ!


酒盗まれただけで殺しに来るとか、酒の恨み怖すぎだろ!


様々な思いが脳内を駆けめぐり続け、雲の合間を縫って落下していると、雲の中から何かが飛び出した。



「なんだああああああ、ありゃああああああ!!!」


それは炎を纏いながら飛んでいる大きな鳥だった。

おそらく、見かけよりもずっと大きいと思う。ひょっとしたら、飛行機くらいの大きさを持っているのかもしれない。

青い空に炎の軌跡を描いていた。


ファンタジー世界にふさわしい鳥だ。


そしてその巨大な鳥が雲の中から出たさらに巨大な何かに食べられた。


「ギョエエエエエエエエエ!!!!!!!!」

「ログボオオオオオオオオ!!!!!!!!」



鳥の悲鳴とバキリ、ボキリという音がここまで聞こえてくる。骨が折れる音がこ気味いい。

朝食に唐揚げを食べるように、鳥を飲み込んでいった。


食べられている鳥の悲鳴が一瞬空に響き、すぐに消えた。


巨大な赤い鳥を食べたのは巨大な竜だった。


大きな翼を持つ青い竜で、天空をゆったりと優雅に泳ぐように飛んでいた。

空の支配者。そういわれて納得するような風格をその竜は持っていた。





「やべええええええ!!!!」

「ログボオオオオオ!!!!」


頭上で声がした。

ハクがしがみついて涙を流しながら何か叫んでいる。


鳥を食べ終わった竜が満足げにげっぷをするかのように火を噴いた。

そしてこちらを一瞬見て、ウィンクをした気がした。


俺はその竜を一瞬で通り越し、落下していく。


「しぬううううううううう!!!!!」

「ログボオオオオオオオ!!!!!!」


街が見える。

大きな塔を中心とした巨大都市だ。何重にも城壁が囲まれている。


落ちる。塔。酒。スキル。落ちる。街。落ちる。落ちる。


「オロロロロロ!!!!!!」


いろんな感情が交差して、先ほど飲んだ酒が口から漏れだした。

俺の落下の軌跡を虹が描いた。


「オロロロロロ!!!!!」


ついでにハクがもらいゲロ。


俺たちは異世界転移の土産物として虹色の雨を降らせた。


その日、迷宮都市マギロラビアでは、空神幻竜マドワイによって迷宮都市名物の朝火鳥レディア・フェニックスが食べられ、虹を描く彗星が見られた。


そして一部地域では空から何か不思議な飛沫が落ちてきた。








どんどんと地面が近くなる。見える範囲が狭くなっていく。


街の大通り側にある裏道。

俺たちはそこにまっすぐと吸い込まれていった。


「ぶへ!」

「ふにゃ!」


道の上に餅のように重なってつぶれる二人。


「いった・・・くないな」


体を触って状態を確認する。

けがは…ない。骨折もしていない。


ふぅ…。


無事だった。よかった、死ぬかと思った。

マジで転移して一分で地面と合体するところだった。

死亡RTAランカーは目指していない。


「成層圏からの落下とか、どんな転移の仕方だよ…」


転生者レビューで絶対に閻魔を名指しでクレーム入れてやる。


「ふにゃあああ…」


俺の隣では、ハクが涙目で溶けながら嘆いていた。



スキルの神、ハク。

力を封印され、下界へと追放された彼女に神の威厳は既にない。

いやそういえば最初からなかった。


代わりにあるのはスキル神ならぬスマホ廃神から神の要素を抜いた、スマホ中毒者のなれの果ての姿しかなかった。

そして若干酒臭い。あれだけはいたのにまだ抜けていないらしい。


このアル中狐、ずっと泣いてるわ。

そりゃ確かに、いきなりペットになったら誰でも泣くか。

奴隷みたいなものだしな。


「なぁ、大丈夫か? ペットにして悪かったな。謝るからそんな泣くなよ」

「そちらではないわい…。ログボが…。妾のログボが…」


ペットにされること以上にログボがなくなったことの方が泣けるらしい。

流石スマホ廃神、価値基準が人間を超越している。

まぁそうじゃないとガチャで借金なんてしないか。


「ログボでそんな泣く? たかだがログボだろう?」

「ふぐ。妾はな、天界に名を馳せたソシャゲプレイヤーなのじゃ。当然プレイしていたのはあのゲームだけじゃないのじゃ。いろんなゲームのログボをもらってたのじゃ。しめて108アプリあったのじゃ」

「やりすぎだろ。それ絶対一つのスマホじゃ入りきらないじゃん。どんだけスマホ持ってるんだよ」

「一杯持ってたのじゃ。それに一人で4人プレイするためには複数スマホは常識なのじゃ。全部取り上げられたのじゃ…」

「…一人で四人プレイって、友達いなかったの?」

「ば、馬鹿にするな! 友達はいっぱいおるぞ! …借金を期にとんとご無沙汰じゃが」

「あ、そう」


地雷を踏んでしまっただろうか。




立ち上がって周辺を見ると、そこは若干薄汚れた裏通りという雰囲気の場所だった。


「ここが異世界かぁ。本当にきちまったんだなぁ…」


空気をゆっくりと吸って、そしてはく。


表通りの喧噪が少なからず響いてくる。

これが異世界の空気。異世界のにおい。



サブカルで何度も見聞きした多くの転生主人公たちと同じ舞台に、俺は今立っているんだ。

少し感慨深いな。


冒険、魔物、チート、ハーレム。

これから俺の冒険が始まるわけか…。



…。

…いや始まらないわ。


そういえば肝心のスキルがアレだった。何を言っているんだ俺は。


俺はスキル転生でもらったスキルのことを想像すると気持ちが暗くなった。

そして補償としてもらったハクを見る。


「フニャア…」


相変わらず溶けている。

猫は液体とか聞くことがあったが、狐も液体だったらしい。

同じ液体でもこちらはFXで全財産溶かした人みたいな感じだが。


…。

…大丈夫かな。


不安と共に、俺の異世界ライフは幕を開けた。

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