第7話
スキル転生、来世を迎える前に爆死が確定。
嘆く俺に対して、閻魔が若干申し訳なさそうな表情を見せた。
「シレンさん、さすがにこれをスキル転生とするのはこちらとしても不本意ですので、補償いたします。次回の転生の際には、あらかじめ転生内容を選べるようにしておきます。TS転生、悪役令嬢転生、モンスター転生等もいけます。これで今回の転生、つまり来世に関しては勘弁していただけませんか?」
「…何で転生内容がゲテモノばかりなんだ」
別に俺は人間の男であることを捨てたいわけじゃない。
俺はいい家族を作りたいと思っているんだ。
だから息子を見捨てたりはしない。
「レアスキルマシマシチーレムパコパコも付け加えますよ」
「いや、パコパコはいらないから」
「わかりました。スキル:不能をご要望ですね」
「そういう意味じゃねぇよ! はぁ…、わかった。それで何とかします…。あー。俺の異世界生活がぁ」
嘆いてがっくりとなる。
「すまぬのじゃ。妾としても何とかしてあげたいが…今からじゃとちょっと」
「まぁ…牢屋に入ってるしな」
牢屋の中で縛られているハクが申し訳なさそうな表情を見せた。
流石に牢屋に入れられている人に頼んだりしないよ。
「ハクも達者でな」
「うむ…」
こいつも下界で、つらい毎日が…。
いや下界を遠足気分で楽しもうとしていたんだった。俺と全然ちげぇ。
「ふむ」
俺たちの様子を見た閻魔が何かを思いついたかのような顔を見せた。
「シレンさん、先ほどの補償に加えてペットはいかがですか?」
「ペット? なんで急にペット?」
「異世界ではどんな生活になるかはわかりません。調子のいいときはいいでしょう。ですが人生、常に順風満帆とは限りません。苦難の時、孤独の時があるでしょう。そんなときに心の支えになるペットがいればいいと思いませんか?」
ペット。
そういえばペット飼いたいって思ってたんだよな。
「今回のは補償ですので、ご提供するのは私が直々に選んだ特別なペットです。世界に一つだけのユニークモンスターですよ」
「おお」
特別。世界に一つだけ。ユニークモンスター。
そそる言葉を言ってくれるじゃないか。
「ペットに必須なモフモフも兼ね備えていますし、それに擬人化も可能です」
「モフモフ、擬人化…。戦うことはできるの?」
戦闘能力は大事だ。
正直、こんなスキルになってしまったからちょっと戦闘能力に不安があるんだよな。
「最初は弱いですが、運よく封印が解ければ最高値は高いですよ。神レベル、その世界で最強といっても過言ではありません」
「それは、いいかも」
最強が自分のペットとかよくある転生じゃないか。
いいな、それ。
「では採用で! これでお詫びとさせていただきます。では契約書に手を」
「あ、はい」
どこからか取り出された契約書に手をのせると、手に文様が出てきて消えた。
「それで、どんなペット?」
「すぐご用意いたしますね」
閻魔は契約書をササっと隠すと、後ろに振り返りハクに向き直った。
「ハク」
「なんじゃ?」
「こちらへ」
「?」
縄をほどこうとしていたハクが、疑問に思いながら閻魔の方へとよった。
芋虫として動くたびに尻尾が揺れている。めっちゃもふもふだ。
ん? もふもふ?
「なんじゃ?」
閻魔様はハクの頭に、正確にはその額に手を伸ばし、指を突き入れた。
「ふん!」
「あた!!!!!!」
ハクの額になにやら文様がでて、そして消えた。
「封印!」
「いたああああああああ!!!!!」
芋虫のハクが文字通り芋虫のように転げまわった。
ハクの全身が一瞬、光を発する。
そして九本あった尻尾が減っていき、最終的に一本になった。
涙目で転げまわるハクを容赦なく縄ごと引きづって牢屋から取り出し、俺の前に押し出した。
「シレンさん、はい」
「いや、はい、じゃないが」
「これがペットです。あなただけの特別なペットですよ」
「いやそんな生き別れの兄弟みたいな感じで紹介するなよ。流石にペットは無理があるでしょ。普通に人間じゃん」
「いえいえ、これは酒を餌とするキツネ畜生ですよ」
「めっちゃ餌代かかるじゃねぇか」
「それに人化もできます」
「いやすでに人だし」
「もふもふもあります」
「尻尾だけな。全身のもふもふじゃないじゃん。というか封印したってことは弱くなってるじゃん!」
「けど最高値は高いですよ? 私の言い分に間違いはありません」
「半分詐欺じゃねぇか!」
「それに先ほど、ハクに一緒に転生しようと言ってましたよね?」
「う…、そりゃ言ったけども」
「もう受け付けました! 契約書にサインもいただきました! 嘘偽りなくペットですので返品不可です!」
「ひでえ!!!!」
そして復活したハクも言う。
「ひ、ひどいのじゃ! 力まで封印するとかひどいのじゃ!」
「何を言っているんです? この封印処理は当然です。あなた、前科がありますよね? 昔下界に降りた際、幸運の獣といわれて調子に乗って酒飲みまくって暴れてましたよね? 最終的には陰陽師に封印されていませんでした?」
「う…」
「それにこれでシレンさんのペットとしてお勤めを果たしたなら、罪を軽くしてもいいですよ。彼は被害者ですからね」
「ホ、本当か?! …け、けど、さすがにペットはいけないのじゃ! こやつチーレムパコパコだからペットでもイけるはずなのじゃ!」
「だれがペットとやるか! 人をちくわでも行ける畜生みたいな扱いするんじゃねぇ!」
「…は! まさか!」
「まさか! じゃねぇよ」
「だまらっしゃい!!!!!!!」
突然閻魔様が大声をあげた。
言い争う俺たちに対して、ギロリと閻魔様が目を向ける。
「おまえら、俺の酒を飲み干したこと、気づいていないとでも思っているのか」
「「あ」」
「あの酒はなぁ、私が次の階位にあがった際にとっておいた取って置きの酒だ。数千年ものの酒だってあったのだ。めちゃくちゃ楽しみにしてたのだ。それをおまえら、馬鹿みてえにガバガバガバガバ飲みやがって。この怒りを抑えるのにどれほど苦労していることか」
閻魔のあまりの怒りに、背景にはゴゴゴゴと文字付の効果音が鳴っていた。
「いっそのこと…このまま無間地獄にでも落としてやろうか」
「「ひ、ひぃぃいいいい!!!!」」
「私の裁定に、なにか不満がありますか?」
「「な、ないです」」
「よかった。本当によかった。一件落着ということで」
俺たちの答えを聞いて、すぐに笑顔になった。
逆に怖いです。それ。
「ハクよ。ペットとしてシレンさんに仕えるように…」
「わ、わかったのじゃ」
「シレンさん、こちらでいいですね?」
「は、はい」
「よかった。では、送りますね。スキル転生ですので、転移先は剣と魔法の世界になります。安全な街中に送りますが、魔物もいる世界ですので気を付けてくださいね」
そして俺とハクの周囲が光る。これで転移が始まる。
「シレンさん、こんなことになってしまいましたが、是非いい異世界生活を送れることを心よりお祈りいたします」
「…はい。がんばります」
閻魔の笑顔がきらりと光る。
お祈りメールみたいな慇懃無礼さだ。
「そういえばハクよ。あなたが持っていた隠しスマホセットと酒は没収しておきましたからね」
「ふにゃ! いつの間に!」
「ペットにスマホはいりませんよね? 酒も現地で主人からもらってください」
「ふぐ…。閻魔、せ、せめてログボだけは受け取ってほしいのじゃ! 1000日連続ログインボーナスでもらえる限定レアアイテムがそろそろなのじゃ! あ、後時間があったらデイリーもやってほしいのじゃ!」
「ログボ? 何ですかそれ?」
「ふにゃあああああ!!!!!!」
スキル転生。
夢と希望を抱いて異世界へと旅立つ場所。
その場所を悲鳴を上げる酒狐と低評価スキルたちを抱いて、俺は転移した。
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