第5話

「スキル転生の間に送り込んだものの、転生が始まらないので来てみたら二人仲良く酒盛りですか」


バシン、バシンという鞭がはじけるような音が聞こえる。

それはそのものの手から出ていた。


片方の手に持った禍々しく黒く巨大な金棒で、もう片方の手をたたいていた。

叩く度に地面が揺れているような感覚があるのは気のせいだろうか。


閻魔だ。

目の前には怒り心頭の様子の転生の神の閻魔がいた。


そんな閻魔の持つ金棒に皿のように顔がへこむほどに打たれ、吹き飛ばされたハクが体を起こしながら声を上げた


「だ、だれじゃあ! 妾をぶったたいたのは!」

「私ですが?」

「ぎゃああああああ!!!!!! 鬼じゃああああああ!!!!!」

「鬼ですが何か?」


ハクはビビりすぎて、思わず後ずさってしまった。

というか、顔の造詣が変わるほど凹んだのに大丈夫だったんだな。さすが神。


ビビっていたハクは気を取り戻し、酒精を帯びた口から声を上げる。


「な、な、な、何のようじゃ! 仕事はちゃんとやっとるぞ!」

「何のようではありません。この転生に省エネが求められる時代にいつまで時間かけているのですか。 それに仕事中に酒を飲むとはどういうことですか? バカなんですか?」

「バカとは何じゃ! どいつもこいつも酒飲みをバカにしおって! 酒は百薬の長じゃぞ! つまり飲めば飲むほど健康になるだから、心身を浪費する仕事中には酒を飲むのは道理じゃ! むしろ推奨すべきじゃ! QED!」

「なるほど。真の不治の病はバカであると」


そして閻魔はハクの方へと手を伸ばした。


「罪人ハクを捕縛」


閻魔が指を挙げると複雑な文様が入った縄がどこからともなく出てきてハクを縛り付けた。

さらには禍々しくも刺々しい牢屋が出てきてハクを閉じ込めた。


一瞬でハクが捕まってしまった。


「な、なんじゃこれ! ひどいのじゃ! サラ様にいいつけるぞ!」


縄で縛られ、立てなくなったハクが芋虫みたいな姿勢で叫んだ。

頭に這えた獣耳や尻尾の毛が逆立っている。


「あなたの上司であるサラ殿は現在裏垢女子ならぬ裏魂女神となって、VTUBER転生してダンジョン探索しながらベストギタリストを目指して奮闘中です。今度のダンジョンのスタンピードの際にライブを行うようですね。忙しいのであなたのことにかまけてる暇などない」


「サラ様! 一体何をしておるのじゃ!」

「本当に一体何をしてるんだ、それ」


属性が迷子だ。その女神の着地点はどこなんだ?


「それに、以前から来ているクレームに対応するために、私にもあなたを処罰する権限をサラ殿から預かっています。サラ殿からも好きにしてよいと言われています」

「う、うそじゃあああ!!!! サラ様、以前ボス攻略手伝ったのに裏切ったのか!」


はかない裏切りだ。


「嘘ではありません! あなたはたびたび注意されたのに勤務中の飲酒、スマホいじりをやめませんでしたね」

「いやけど、それは仕方ないのじゃ! 仕事中の飲酒、スマホいじりでしか得られない栄養があるのじゃ! これをやめると栄養失調で倒れるのじゃ!」


いいスキルもらっといてなんだけど、めちゃくちゃダメな女神だな。

なんかちょっと冷静になってきた。


「だまらっしゃい! あなたにはほとほと愛想が尽きました! 何度あなたをかばったことか! これより簡易裁判を開廷! 審理および裁定を下します!」

「え、閻魔、嘘じゃろ? 冗談じゃよな??」


そんな言葉を無視して閻魔は続ける。


「世界を壊すのほどスキル作成! 一方で低評価スキルの連続作成! 仕事中の飲酒、スマホいじり! これらの罪により、ハク! あなたを下界、カグワへと追放します!」

「な! あのうどんがおいしくて、一日一時間までしかゲームができない地獄の地、カグワ!? それだけは、それだけは勘弁を!」


ゲーマーしか効果なさそうな地獄だな。


「スマホも没収します!」

「なあああ!!! ログボが! ログボが受け取れぬではないか!」

「問答無用! 下界で反省してきなさい!」

「フニャアアア…」


なおも縋るハクに向かって、ギロリと閻魔様が目を向ける。

とろけるように崩れて泣き始めた。



だが、すぐに元に戻った。

そしてごそごそとどこからともなく何かを取り出した。あれは冊子?


「ふ、ふん! 妾はこんな時に備えていたから大丈夫なのじゃ!」

「大丈夫ですか? ついに気でも触れましたか? いや失礼、それが普通でしたね」

「下界に追放された時用の旅のしおりを作っておいたのじゃ!」

「遠足か」


実は楽しみにしていたんじゃないだろうな。


「お小遣いの配分だってちゃんと決めておるのじゃ。妾はできる女神じゃからな。一日の食事代千ぜにーじゃろ、一日のお菓子代3000ぜにーじゃろ、そして一日の課金代一万ぜにーじゃ」


「配分で課金代が一番でかいのだが」


それにスマホ没収されてるのにどうやって課金するんだ?


「持っていくものも用意しているのじゃ。着ぐるみ寝巻セット、隠しスマホセット、鬼印の酒20本と宴会セット、愛読書「スキル転生、追放されたら本気出す」を含めた転生もの及び追放もの書籍セット、そしてなんと! こんな時のために作っておいたスキル!」


そしてごそごそと探る。

見知らぬ空間からいろんなものを出していくが、探し物を見つからないようだった。


「あれ、ない! ないのじゃ! どこにあるんじゃ?」

「静かに狂っているハクよ、何を探しているんですか?」

「いつか下界に追放されたときように作っておいたスキル『捨てる神あれば、拾う神あり』じゃ」

「さっき見た時に疑問に思っていたのですが、そのスキル、シレンさんが持っているようですが?」

「「え?」」


ハクと閻魔が俺を見た。

正確には俺の魂をのぞき込んでいた。



「ほ、本当じゃ! いつの間に選んだのじゃ! もしや、さっき選んだのか?」

「え? 俺そんなスキル選んでないよ」


選んでないよな?

俺が選んだのはハクが作ってくれたスキルセットのはず。

確か鑑定とか剣神とかが入っていたんだっけ。


閻魔がいつの間にか目の前に出していた画面をじっと見ていた。

そして何かに気づいたかのように顔を手に当てた。


「ふむ。過去ログを見ると、確かにあなたが自分の手で取得していますね。ご丁寧に確認ボタンも押しています」

「え…」

「多分これ、酒に酔って押し間違えてますね」

「え、まじで?」

「まじです」

「嘘、だろ…」


「シレンさん、あなた前世も酒で失敗して、来世も酒で失敗してますね…」

「ふぐ…」


ガックシと俺は床に手をついた。

俺の、俺のチート達が…。

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