第4話

スキル転生の間。

そこには完全に出来上がった二人が往年の友のように仲良く肩を組みながら飲んでいた。


「この酒うまいなぁ」

「これもあの鬼の秘蔵酒じゃな。なんかかなり上位神からもらった酒じゃったかな?」

「なんだ。通りでうまい。しかし、めっちゃ飲んだな…」


目の前には先ほどの酒林と同じくらいの酒瓶が開けられていた。

霊体だからか、これだけの量を飲んでも酔いがあるだけでケロリとしている。

ひょっとしたらここは天国かもしれない。


「今更だけど、こんだけ飲んで大丈夫だったの?」

「大丈夫じゃ! 後で借金で返すから! 」

「なるほど…。なら大丈夫か!」


何も大丈夫ではないが。

酒飲みの口から論理を含んだ言葉が出るわけがなかった。


ひとしきり飲んだ二人、その二人は何かを忘れていることに気づいた。


「あ、スキル転生」

「おー、そうじゃったのー。すっかり酒がうまくて忘れておった」

「鬼のせいだな」

「そうだのぉー。あの鬼はいつも気に食わん。妾がやることにいつも口出してきおる」

「とはいえ、あの鬼のおかげで酒が飲める」

「そういえばそうだの」

「クソ鬼に!」

「鬼畜鬼に!」

「「乾杯!!!」」


二人の盃がぶつかり合う。


「ふむ、気分がいいのう。こんな気分は久しぶりじゃ」

「そうなのか?」

「最近はあまりうまくいかんことが多くてのぉ。そうじゃ! おぬしならこのスキル受け取ってくれるかもしれん!」

「神おすすめのスキルか。どんなの?」

「スキル:酒豪じゃ! 酔いの飲まれることがなくなるぞ!」

「え、いらない」

「え…」


そういうと、ハクは絶望の表情を見せた。


酔った瞳に涙を浮かべ、耳がペタンとした。

え、えええ。そんな顔をする?


「い、いらんのか? 妾の最高のスキルだぞ。そ、それとも妾と飲む酒は楽しくなかったのか? やっぱし飲みニケーションなんて古かったのか?」

「いやそうじゃなくて、いらないだろ。酒は酔うから楽しいのに酔わなくなるんだから…」

「う…」


持ち上げていた盃と肩を落とすハク。

断ったこちらが申し訳なくなるな。

とはいえ、そのスキルはいらないが。


「なんか他のスキルはないの?」

「あ、そうじゃ! スキル:イカスピアー!」

「…イカスピアー?」


なんぞそれ。

ネタスキル?


「そうじゃ。イカの槍をうまく使えるようになる! ほらこのつまみとして出した出し物のイカも武器として使えるぞ? 急に敵がおそってきたときにイカスピアーならすぐに戦えるのじゃ!」

「…いや、いらんけど」

「な、なぜじゃ! イカのやりに不満があったのか? それともイカ臭いのがダメだったのか?」

「イカ臭い槍とか普通に嫌だが、それはそもそも武器じゃないだろ。スキルで戦うならふつうに剣とかで戦うだろうよ」

「う…、そりゃそうじゃよな」


ハクが再びしょぼんとうなだれた。

何だろう。そういったネタスキルが転生者の中で流行っているのかな?


「なら、どんなスキルが欲しいのじゃ?」


どんな、か。

そういえば、いろんな転生ものを読んできたが、どういうのがいいとかは考えたことないなぁ。その場その場で面白そうなスキルとかあったし。


最近はちょっとネタっぽいスキルでの逆転ものとかが多かったか?


うーん。けど、こういうのって定番どころでいいと思うんだよなぁ。


変にとがったもの選んでも大変なだけな気がする。

とがったものよりも定番スキルの方がおそらく使いやすいだろう。


困難の多い人生よりもチートによる楽勝人生の方がいいよなぁ。


「たとえばさ、剣神とか、鑑定とか、アイテムボックスとか」

「む!」

「他には成長速度マシマシとか空間魔法とか聖者とか」

「むむむ!」

「やっぱそういうのがいいな」


そういうと、先ほどのしょぼんとした姿から打って変わって、怒った表情を見せた。


「いかんぞ!」

「え?」


「おぬし、チーレムか! やっぱし転生者はチーレムパコパコなのか?! どいつもこいつも盛んになりおって! 異世界で魔王を倒したい、とかいいながら、内心では魔王ではなくおなごを押し倒したいんじゃろう! できれば美人な魔王を押し倒せれば一石二鳥だって考えておるんじゃろう!」


「パコパコって、んなことねぇよ…」

「嘘付け! 妾のチーレムセンサーが反応しておる! 見よ!このしっぽを! 4番目のしっぽがピリピリと反応しておる!」


そういうと、ハクはしっぽを見せてみる。

モフモフでさわり心地の良さそうな尻尾だ。

この九本あるしっぽのうちどれかがチーレムセンサーらしい。


「どれかわからないけど、これか?」

「ふにゃ!」


もふもふな尻尾を一本触ってみる。

触られたハクがぴょんと飛び上がった。


「いきなり尻尾にさわるでない! びっくりするじゃろうが!」

「触ってほしいのかなって」

「なわけないのじゃ!」


さわり心地は結構よかった。

あー、そういえばああいうモフモフなペットとか欲しかったなぁ。


前世では飼えなかったけれど、次の転生でそういうペット飼えるといいな。

いや、飼おう。


「じゃあ、チートはだめなの?」

「ダメってことはないがのう…。おぬし、世界を滅ぼさぬよな?」

「何だそれ? ひょっとして実は俺は記憶をなくした大魔王とか邪神とかの転生体だった?」

「いや当然おぬしはモブなんじゃが…」

「なんかいきなり急所をナイフで刺されたんだが?」


ハクはそういうと口ごもった。


「さっき言ったスキル、やっぱし変じゃったかの?」

「まぁ…、正直あまりほしいもんじゃないな」

「ふぐ…」


ハクが胸を抑えた。

ハクは体操座りをすると床を指で何かを描きながら話し出した。


「昔はまともなスキルを与えておったのじゃ。俗にいうチートだって与えておったのじゃ。シレンの言ったようなやつとかな」


語り始めた。


「そしたらな、あのバカども、世界をことごとくぶち壊したのじゃ。誰が想像できるのじゃ。剣神スキルで神ごと世界をぶったぎる陰キャバカ、聖女スキルで不死の軍団を作り出してすべての種族を滅ぼす逆ハーバカ、鑑定スキルでその世界の一番の女神を鑑定して、その女神のヤった男神リストを世に広め、神と人を合わせた世界大戦につなげる策士バカ、空間魔法で世界を数メートルずらして環境を真逆にまで変える気候変動を起こす実験バカ。うっかりアイテムボックスに海水全て詰め込んで人類皆滅ぼすただのバカ。皆バカばっかじゃ。こんなの妾に想像できるわけないのじゃ。しかも何故かスキルを付与したというだけで責任はこちらに来るし。そのせいでな。妾は借金じゃ。借金地獄じゃ」



「な、なんか大変だったな」

「大変じゃ。それで今度は世界への影響が少ないのばかり作ったら不評ばかりで怒られるし。踏んだり蹴ったりじゃ…」

「お、おう」


かわいそうっちゃかわいそうだな。

こいつもこいつなりに頑張ってきたんだろうな…。


「まぁ、つらいことは全部飲んで忘れよう」

「そうじゃのう。飲むか!」


二人でまた飲む。


「だったらチートはだめなのか…」

「いや! シレンなら良いぞ! おぬしと妾の仲じゃからのう! さっきのスキル達で作っておいてやる! 魂の容量ギリギリなのじゃがいけるじゃろう」

「よっしゃ! ありがとう!」

「いいのじゃいいのじゃ!」


そういうと、ハクの目の前に半透明のボードが出てきて操作し始めた。


そしてしばらくすると、「できたのじゃ」といった。


俺の目の前にいろんなスキルが並んでいるハクと同じようなボードが出てきた。


スキルがずらりと並んでいる。

おそらくスキルには魂の容量を消費するのだろう。魂の容量別にいろんなスキルが並んでいた。


「下の方にあるのじゃ」

ハクはそういうと酒を飲み始めた。


そういえば魂の容量ギリギリとかいってたからな。おそらく最後の方かな。


そうして、最後の方に並んでいたシレン用スキルと書かれていたところを押して、確認も押した。


酒でおぼつかない指と目で。


すると、スキルが中に入ってきた。


これがスキルか…。


「チートを作るの無理だって言ってたのに悪いなぁ」

「いいのじゃいいのじゃ! そのスキルで人の役に立ってくれ! スキルも喜ぶ! 異世界を救ってもよいのじゃぞ!」

「おお! 異世界救ったらぁ!」

「いよ! 勇者!」


別に勇者願望なんてなかったがノリで何でもいってしまう。


「なんならハク、おまえも一緒に転生するか! おまえみたいな奴と一緒にいけると楽しそうだ!」

「にゃっはっはっは! ええのうええのう! そうするか!」

「いやぁ最初はどうなることかと思ったけどな! いいスキル転生だ!」

「じゃろうじゃろう!妾もよかったわ!」


「これもあの鬼の酒のおかげだ!」

「そうじゃな! あのくそ鬼のおかげじゃ!」

「鬼畜鬼に!」

「くそ鬼に!」

「「乾杯!!」」




二人が杯を合わせあう。

笑顔の二人。未来に希望しか抱いていない。



「なにが乾杯ですか」


何か黒くまがまがしいものが唐突に目の前を横切った。


「ぶへえええええ!!!!!」

「え?」


目の前にいた幸せそうな笑顔をしたハクの顔は、皿のようにへこみ、そして惨めな声を上げながら吹き飛ばされていった。


「ハクウウウウウウウウ!!!!!!!!!」

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