抱えたくなかったもの 十六日目 (二十一の日)
親愛なる我が従弟殿。
今回もまた――いや、今回こそは、かなり踏み込んで書いていると予告するよ。
勝手に書いて送りつけているくせに、と思われそうだね。そこは言い訳のしようもない。
けれど、分かっていてもこうして書くのは、いつかは君が自分で閉ざした扉を開けて、外に踏み出してくれることを願っているからだ。
そして、そのときの君にこそ、これを読んでほしいと思っている。
オーリチの疑問は、言われてみれば確かに当然なのだろう。
私は私なりの理屈で生きてはいるけれど、そんなの、オーリチをはじめとする他のひとには分かるわけもないのだから。
色々なことに決着がついて、その結果ここに送られた私は、数日もすると何も喉を通らなくなった。
平気なふりをするのに限界が来たのだろうね。
父上の死の瞬間が頭の中に繰り返し浮かんで、眠ることもできなくなった。
横になって目を瞑っても、心の中にどうしても湧き上がるのは、処刑された父上の姿に満足げな表情を浮かべた人々の顔と、そんな彼らに対する私の怒りで、胸がじりじりと灼け付くように痛んで仕方なかった。
もう笑うことなんて一生できないんじゃないかと思ったよ。
こんな気持ちをこれからずっと引き摺って生きなくてはならないのかと思うと、それにも絶望した。この状態で正気を保ち続けるのなんて、到底無理な気がした。
憎しみを知る前の自分に戻りたい、と心は泣き喚いたけれど、どうしてか涙は一滴も出てこなくて、それは不思議だったね。
だけどある日、同じように心に
何と言うもなにも、どう考えても怒るに違いなかった。
「そのように苦しまれるお姿、さぞや敵が喜ぶでしょうな。絵師に描かせて送り届けてやりましょうか」
本人が現れたのかと錯覚するくらい、自分の想像から出てきたとは思えないひどいことを言われたよ。
でも確かに、わざわざ相手が喜ぶような状況に陥って、しかも私自身がそこで苦しむのって、あんまりにも不毛だと気付いた。
そこからは、少しずつ穏やかな日々を取り戻せていった気がする。
攻撃的なことを考える自分がいなくなったわけではない。けれど誰も彼もを恨んで憎むというのではなくて、自分の怒りの矛先が見当違いだったりしないか、と振り返る余裕が出てきたんだ。
恐らく、私自身はなるべく負の感情を抱えたくないと思っていて、それを向ける相手もできるだけ少なくしたいらしい。
そういった整理を重ねた結果、僧院やオーリチはすぐに対象から外れた。当たり前だ。彼らは何もしていないのだからね。
陛下は――これが難しい。私は結局、あの内乱の真相を知らない。父上と陛下の間に何があったのか、何かあったのか、それが分からないんだ。
あのとき、刑場で見上げた陛下のお顔は苦痛と苦悩に
驚くほど穏やかな表情で断頭台に上がった父上とは対照的で、私はどこか心の片隅で、逆ではないの? と思ったほどだったんだ。
この謎が解けない限り、私は陛下のことを心底憎むことも、逆に許すこともできない気がしているよ。
……これはオーリチにはそのまま言えないけれどね。
ただ、父上の処刑を喜んだ人間は、陛下とは別にいる――それは確かなことなんだ。
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