在るはずの心を探して 十五日目 (十九の日)
親愛なる我が従弟殿。
オーリチは私の何にそこまで困惑していたのか。
思い当たらずきょとんとした私に、彼は悩みつつ説明してくれた。
「貴方の心が分からないのです」
「……心?」
私には意外な言葉に思えたよ。私自身は、普段からそれなりに感情を顔に出す方だと思っていたからね。
「貴方は決して言葉や態度を荒げません。そして私のような者に対しても丁寧な物言いをされる」
「ああ」
なんだ、そんなことか、と私はほんの少し拍子抜けして、すぐに答えたよ。
「それはただの癖です。母上の家督を継いだとき、私はまだ幼くて、周りは大人ばかり。だから膝を屈してはならないけれど、尊大な態度を取ってもいけない、とよく母上から言われて……そのうちこの話し方が普通になっていたのです。そういうわけだから、これは気にしないでください」
「……そうでしたか」
オーリチが頷いたので、これで話は終わるのかと思った。けれど、実は本題はここからだった。
「私は、貴方がご自分の心を隠すためにそのような話し方をされているのだと思っておりました。……今のお話を聞いてなお、その疑問は消えてはおりません」
あれ? と私は考えてしまったよ。
「……私がオーリチに隠さなければならない何かなんて、ありましたっけ?」
オーリチは再び困ったような顔をした……のだと思う。眉間の皺がちょっと深くなったから、多分(分かりにくい)。
「私に限ったことではありませんが、王都と繋がりの深いここは貴方にとって敵地のようなもの。特に私はラングワート家の出身ですし、お父上のことで貴方に
「……私は父上を見殺しにしたと皆から言われているのでしょう? 噂を信じるなら、私が父上と不仲であったとも考えられるのでは?」
そう言われても仕方がないことをした自覚はあったからね。
「もちろんその可能性も考えました。ですが日々貴方を観察する中で、とてもそのようには……。さりとて、お父上の処刑を命じられた陛下に対して特段の恨み言を口になさるでもない。私は貴方のお心がどちらにどのように向いているのか、測りかねているのです」
「恨みありきみたいに言いますけど、私にその感情が無かったら?」
「貴方はおひとりの際、ひどく塞いでおいでの日があるでしょう。それは何らかの負の感情があるからこそではありませんか?」
私は降参せざるを得なかった。彼は実によく私を見ていたんだ。
オーリチのあの睨みつけるような目つき、あれは私を注視するあまりのことだったらしい(誤解されるだろうからどうにかした方がいい、といつか私は本人に伝えるべきなのだろうか)。
おかげで、私はあらためて自分自身の心と向き合わざるを得なくなったのだった。
……長くなってしまったね。この続きはまた明日。
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