従者との対話の始まり 十四日目 (十八の日)
親愛なる我が従弟殿。
領事はようやく落ち着いたので、また私の従者の話に戻そうか。
オーリチが話しかけてきた、というところだったね。
その日は講義を受ける予定だったのだけれど、教授が風邪を引いたとかで突然時間が空いてしまったのだった。
それまでオーリチは最低限の決まりきった挨拶くらいしか口にしなかったのだけれど、私がぼんやり窓の外を眺めていたら、突然切り出してきたんだ。
「先日は無礼な物言いをしました」
あんまり唐突で、私は目を真ん丸にして彼を振り返ったまま、しばらく固まってしまったよ。
相変わらず難しい顔をしていた……と思う。驚きすぎてその辺りの記憶が曖昧なのだけれど。
話し掛けられたことに驚いたし、彼の中に無礼という概念があることにもびっくりしたよ。だって、終始睨みつけるような顔つきで付き従ってくるのだから、態度や言動を気遣うということはしないひとなのだろうと思っていたんだ。
「……それは、好きでも嫌いでもない、と答えてくれたこと?」
何しろ、それ以外は挨拶の言葉しか聞いたことがないのだから、他に無いだろう。
案の定、彼は
「何とお答えすべきか迷うあまり、余計なことを申してしまいました。嫌いではない、とだけ申し上げればよかったはずなのです」
あのとき面と向かって私に問われたことに、向こうも驚いていたらしい。……あの顔、驚いてたんだ、と思ったけれど、口には出さなかった。
「……あれが貴方の本音なら、私は受け入れますけど?」
まあ、ちょっと心に引っ掛かったのは確かだけど、大したことではない。従者という身近な立場の人間には、建前だけで話されるより余程良いと思うしね。
けれどオーリチは変な顔をして、また黙り込んでしまった。そんなに意外だったのだろうか。
これまでも私に近しく仕えてくれるひとは、皆言いたいことをはっきり言う人間ばかりだったし――。あれ、今気付いたけれど、もしかしてわざとそういう人選になっていたのかな。
オーリチはしばらく何かを考えていたようだけど、やがて口を開いた。
「……こんなことを言うのは何ですが、貴方はどう接するべきかが、大変難しい」
それは本当に、難儀しているような口ぶりだったよ。でも、いったいどういうことなのだろう?
私は首を傾げてしまった。
――さて、今日はここまで。この続きはまた明日書くことにしよう。
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