理解できることの安堵  十七日目 (二十二の日)

 親愛なる我が従弟殿。


 私の心が分からない、と言ったオーリチは、私の心境についての説明に静かに耳を傾けてくれた。

 整然と語るのは難しかったから、かなり聞き苦しかったのではないかと思うけれどね。


 今でこそなんとか文字で綴ることができてはいるけれど、あのときはまだ、ようやく自分の心を振り返ることができ始めたばかりだったから、説明しきれないところもたくさんあった。


 ……ああ、そうだね。あのときオーリチが私自身について疑問をぶつけてくれたから、私はより意識して、自分の心に向き合えたのかもしれない。


 私にはもう、両親はおろか、ずっと側で導き支えてくれた傅役もりやくもいないから、すべてを自分ひとりで抱え込まなくてはならないと気負っていた。

 もちろん、猊下も私を心配してくださっているおひとりであることは確かだけれど、猊下は聖都の主として日々重責をこなしておいでの身だからね。私個人のことでお手を煩わせることは極力避けるべきということも分かっていた。


 けれど、思いがけずオーリチが私を気に掛けてくれていると分かったのは、幸運なことだったよ。

 何でも、とまではいかなくとも、心の中に渦巻いているものを少しでも話して分かち合えるのは、私が成したいと考えた思考や感情の整理にとても有用だったから。


 そしてオーリチはオーリチで、私が普通の人間なら誰しも抱えるであろう、わだかまり――つまり父上の仇に対する負の感情――はきちんとあって、でも日々その感情に振り回されたくないと思っている、ということが分かって安心したようだった。


 要するに、彼は私がひどく非人間的なのではないかと疑っていたらしいんだ。

 出会って間もない頃の彼から折に触れ感じたものを、私は反感かと思っていたのだけれど、どちらかというと理解しがたいもの、得体の知れないものへの恐怖だったと分かった。


 誤解が解けて良かったけれど、つまりオーリチは、私のことを気味が悪いと思っていた……ってことなのかな。

 そう考えたら、今頃になって、ちょっと――心に衝撃が来た。


 さて、もうすぐ新年を迎えるための浄めの節に入るね。君への手紙を送り出せる日も少なくなってきた。

 ……結局、君の許に私の書簡は届いているのだろうか。

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