父から継いだ領のこと  十二日目 (十四の日)

 親愛なる我が従弟殿。


 今日も忙しい一日だったよ。


 まあ、司教たちの教典の講義をただ聴くよりは、ずっと充実した時間だと思う……などと言ったら叱られてしまうか。

 ただ、僧籍に身を置いているわけでもないのに修道僧のような生活を送らされていることに、僅かばかり疑問を感じているのは確かではあるけれど。


 さて、領地から届けられた報告書を見る限り、ウォータークレスの領民の冬支度は辛うじて整ったらしい。内乱が起こった後であることを考えれば、まずまずというところかな。ひとまずは安心したよ。


 私が父上と共にウォータークレスで暮らしていたのは本当に小さい頃だったから、それほど記憶にあるわけではないけれど、例年、冬の餓死者の数は目を覆いたくなるものだったと思う。

 そのくらい、あの土地は民を養う力が無かったんだ。


 それがこの厳しい局面を経てもなお、皆で冬を越せる目途が立つまでに豊かにしたという功績に関しては、純粋に父上は讃えられるべきだと思っている。


 ただ、そう言えるのは今ここで、自由を奪われながらも私があの地の継承を認められ、父上の施策を引き継げているからであり、そこに至るまでに一度は陛下の一存にすべてを委ねなければならなくなった時点で、父上はその資格を失っているのだ――と、私の傅役もりやくなら言うのかもしれない。


 どういうことか分かるかな?

 明日はそのことについて書いてみよう。……私自身の胸にも、あらためて刻むために。

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