猊下の配慮と私の立場  九日目 (十一の日)

 親愛なる我が従弟殿。


 今日は一段と雪が深くなったね。君の目に映る王都の景色はどのような様子だろうか。

 そういえば、私は冬のラウウォルフィアも知らないのだった。


 さて、ラングワート出身と分かったオーリチの話だ。


 まずはなぜ猊下が彼を私の世話役に選ばれたのか、という問いに対する答についてだけれど、敢えて純粋な国王派と見做みなされる人間を付けた方が、私の立場が守られる、という配慮からなのだそうだ。


 私自身は、あの件について父上側に付いたわけではなかった(それがなぜかという話は、ここに書くのは不適切だと思うので控えるよ)。

 ただ、機に乗じて国王派と称する一軍が私の領内にまで侵入してきたので、それを追い払うために兵を率いて対峙せざるを得なかった。


 先に亡くなっていた母上が、未だ成人まで間のあるはずの私の甲冑を作らせていたというのがなんだか恐ろしかったね。ご自分が亡き後、こうなるかもしれないと予測していたということだろうから。


 その出兵を内乱への加担と見るか正当防衛と見るかは、陛下のご判断にお任せするしかなかったけれど、最終的に陛下は私の行動を後者と認められたのだろうね。父上の全ての所領について、ひとつも召し上げられることなく継承をお許しになったのだから。


 蟄居ちっきょは、そうはいっても父上反逆者の惣領たる私を放免しては、他の貴族に対して示しがつかないという理由からではないかと考えている。


 そういうことで、私自身が陛下に背く意志がなかったことを理解してくださっている猊下は、これ以上世間で私を父上と結びつけた憶測が飛び交わないよう、父上に同情的な勢力ではなく、むしろその真逆であるラングワート家から従者を選ばれたということだそうだ。


 傍目はためには監視が付いているようにも見えるしね(実際に監視ではないとは言い切れない――いや、監視はされているのだろうけれど)。


 ――ここまでは「ラングワート家のオーリチ」という視点からの話だ。

 次は彼個人についての話をするよ。

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