第8話 黒歴史の規模がでかいので苦労する。(おれが)
おれたちは報告を受けてすぐ、屋敷へ飛んで帰った。
王城からも正式に依頼協力が届いたのだ。
数十時間前にはじめて足を踏み入れたばかりの当主の部屋に、部下たちがすでに報告をまとめ、指示を待っている。
まずは、昨日の王子の足取りからだ。
「王子は二日前の朝から、城下でいつもの『お忍び』に励んでおられました」
王子には、懇意にしている店がいくつか存在する。
いつものルートなら、夕方から酒場『晴天』かレストラン『鹿の王冠』、賭場『金の雨』で遊び、頃合いを見て『湖の乙女』という娼館で、さいきんお気に入りの女の子と吞みなおすまでがフルセットだ。
しかし昨日は、『鹿の王冠』で知り合った男たちに誘われ、はじめての賭場に行ったらしい。
接待され、楽しくなって前後不覚になったところで、賭場のオーナーが不正に気が付いた。男たちは贋金を使っていたのである。
もちろん、同行者であった王子も仲間と思われ、通報でやってきた
ふたりいる護衛らはどうにか王子の身分がばれないように無関係を主張したのだが、失敗したので、とりあえず報告と応援を呼ぶため、ひとりその場を離脱。すると、その行為が逃亡とみなされ、状況はより悪化。
王子は自分がこの国の王子だと明かすも、あまりにみっともなく泥酔しているため、信じてもらえず、悪人どもと牢屋の中へ。
逃げた護衛は警吏を撒くのに時間がかかり、夜明け前にようやく報告。
城の王子担当者が、ほんとうに王子本人かの確認し、疑心暗鬼に陥った警察に対して証明を交わし、ようやく「それが王子である」となったのが……えーと、四十八分前のこと。
「つまり、王子が王子だと証明はできたが、容疑は晴れていないのだね? 」
「ええ、そうなります」
(まずいな……)
おれは背もたれから背中を離し、かつらの下の頭皮を掻いた。メイクを落とす暇もない。
「王子の偽造通貨は二度目だ。それを警察は知ってる」
「……一度目があったのですか? 」
ポーカーフェイスが基礎にある我が家の諜報員の声色に、動揺がもれる。こいつ、駆け出しの
「内々に処理したからな。殿下が十三歳のときだったか。手持ちの硬貨を鋳つぶして、自分の顔を刻印した本物そっくりのコインを作ったんだ。職人には法外な報酬を払ったから、5ファルの硬貨を作るのに82ファルかかってたんだったかな。で、その82ファルの金がかかった5ファル硬貨で普通に買い物をした。――――ら、とうぜんばれて、店の主人が騒ぎ出したから、駆け付けたおれと入れ替わって、金持ち道楽息子の悪気のないいたずらだったということになった。でもさすがに警吏官たちには嘘をつくわけにもいかなくて」
我が国の正義を守るひとたちに、うちの国の第二王子って実はバカなんですってことを納得してもらうという、最悪の仕事だったからよく覚えてる。
でも、まさかその時のおれの仕事が、いまの事態を悪化させることになるとは。
「それでは、二度目は疑われますね……」
「疑われるだろうなぁ。しかも、こんどは悪意があったとされるだろう。まずいなぁ」
この場にいる五人の人間が、そろって遠い目をしてため息をかみ殺すまでの沈黙が落ちた。
気を取り直して、足取りの次は対策だ。王城からの報告をきく。
「さきほど、王子はぶじ内宮へとご帰宅されることとなりました。王城の担当者によりますと、あちらは事実確認で、まだ返答できる段階ではないとのことです」
「事実確認? 王子の身元は分かった。あとは警吏の仕事ではないの」
「それが、見ていただくのがよろしいかと。説明のために一枚借りてきました」
部下が、懐から何かを取り出す。
「これは……」
それは何の変哲もない銅貨に見えた。裏返すと、教皇様の顔が無い。そういえば十一歳の誕生日に書かせた肖像画がもとになっていたな、と、おれは項垂れて目元を手で覆った。
「あのときの5ファル硬貨で間違いないですか? 」
「ぜんぶ溶かしたはずなのに……」
「じつは、これだけではないんです」
おれは心の中で叫んだ。
もう勘弁してくれよ。
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