第5話 序列二位『召使《フットマン》』俺様系お姉さまは好きですか?
元序列二十四位『
それがおれ。
そういえば、うちは後継者がいないので、分家としての『
さて、『
骨格すらあざむく変装術は、学べば誰にでも習得できるたぐいのものではない。
晩年、じいちゃんは九十を超えていたはずだが、死ぬ数か月前まで、おれと兄弟って設定の仕事をこなしていた。
こう言うと、『なんで序列二十四位なの? 』って思うかもしれない。たしかにうちの技術はすごいし誇りもある。
でも組織として考えると、『わざわざ老人が若者にならなくても、最初から若者を使えば良くない? 』ってなるんだよな。
「つまりうちの技術って、一族では一発芸扱いなんだよね」
「たしかに言われてみるとそうかもしれませんけど。……でもすごいのに」
と、うちの花嫁さまはちょっと不服そうに唇を尖らせた。
彼女はしげしげとおれの顔を見て、「ほんとうに、声まで別人なのに」と、ため息をこぼす。
今日はちゃんと陽のあるうちの訪問だ。
そしておれが、どうして変装しているかっていうと、王宮に行くから。そのまえに「いってきまーす」ってお嫁さんにご挨拶しにきたのだ。
『
やつの情報で、おれはひとまず当主として働く決心を決めた。
おれなんかじゃ抗いようのない事態がすでに動き出しているというのが分かったから、とりあえず流されてみようと思うのだ。
ま、その流れが北方山脈の雪解け水くらい激流ってことが分かっているから、死ぬほど憂鬱なんだけど。
いまのおれは、前任の当主に限りなく寄せた若者の姿をしている。
うちだって貴族。それも侯爵っていう大貴族だ。
内情は、貴族とは独立した諜報機関っていっても、それを知るのは王様とわずかな側近のみ。それが代替わりするっていうんだから、筋は通さなきゃあいけない。
前当主は長患いの持病があり病死。
おれは前当主の親戚にあたり、分家筋からの婿入りというかたちで当主となる。……という筋書き。
嘘はついていない。ただ、ほんとうの花嫁に、代役を立てるってだけだ。
「おうおうおう。当主様よぉ。準備はできたか?」
「お義姉さま、おはようございます」
「おう今日も息災か?奥さま」
「お義姉さまったら、やだっもう! 」
「いてて。こらこら。今日から正式に『奥さま』なんだから慣れなきゃな」
使用人に案内されて部屋にやってきた『
二人の姿は、まるで姉妹そのもの。その仲は、すくなくとも険悪ではなさそうで何よりだ。
今日、『
いつものおさげ髪も艶やかに結い上げて、新妻らしい化粧とアクセサリーもつけている。
この人は長年、前当主の長女として、国王付きのメイドのひとりという表の顔を持っている。
長年つとめていて王宮で顔が知られている以上、本当の妻を彼女に変装させても、おれの変装ではいつボロが出るか分からない。
だから、表向きは恐れ多くも彼女がおれの奥さんってことで、パーティーや式典に参加することになるってわけ。
今日はその第一段階。
婚約中の新婚夫婦として、王に謁見。
結婚の承諾をもらい、のち、結婚証明書やらの手続きをすませるというミッション。
高位貴族の世代交代というのは、手順が大事なのだ。
正式な婚姻前に当主が死んだ……ということになっている以上、行政は名乗りをあげた人に侯爵の地位を与えるわけにはいかない。
王と配下の主従関係は、いちおう結婚に例えられるほど神聖なものだから。
これが男爵くらいなら、いちいち王様が出てきたりはしないんだけど、それでもしかるべき社会的地位のある人物からの承認が必要になる。
それが侯爵ともなれば、『しかるべき地位』も限られるってわけで、なら偽装を完璧にするために、国のトップからの承認印をもらえばいいじゃん! ということらしい。
もちろん国王陛下も、偽装結婚の事情は重々承知だから、こんなのはいわばパフォーマンスだ。おめでたい場だから、ギャラリーも多いものだという。
「ま、疑われないよう、せいぜい新婚らしくしようぜ。得意分野だろう? 」
馬車に揺られながら、からりと『
「相手があなただから緊張してるんですよ……」
「素直なところは可愛いな。ま、おれも城じゃあ淑女だからな。別人だと思って演るのがいいぜ。ほんとうの花嫁のためにもな」
本家は城下にある。馬車なんて乗れば、城門までそうはかからない。
乗っているのは王宮で知らぬものはいない勤続十六年のベテランメイドで、しかも用向きは結婚承諾をもらうためというのだから、開門の手続きは驚くほどサクサク進んだ。
手続きのためにお祝いの言葉を言われ、淑女モードの『
おれはじろじろ見られ、ときに睨まれながらも、「待望の結婚で幸せ絶頂です! ぼくの奥さん最高かわいい大好き! 」みたいなアホ面をするのが仕事。
お祝いラッシュは手続きよりも時間を取られるほどで、馬車を降りると、なんと20歩歩くごとに祝福される始末だった。
なかには声をかけてこないのに遠目から黄色い悲鳴を上げる女官や、目が合う位置で、じっとりとおれを睨む若い文官もいる。
さすが、人望あるなぁ『
……もしかしてこれ、城を出るまでずっと続くのかな。
「……卿、ちょっとよろしいかしら」
待機の部屋に入ると、淑女モードのまま『
「何かトラブルでも? 」
「道中、噂話が聞こえました。どうやら今日の謁見は何かあるようです。大丈夫だとは思いますが、お気をつけて」
――――いやなよかん。
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