第2話 あんたらが勝手に下剋上させたんじゃないですか。
目が覚めても死んでなかった。
ていうか、めずらしく寝酒だって飲んだし、なんか八時くらいに目が覚めちゃったので、ちょっと豪華な朝食なんてものを作って食べてから二度寝した。
食材はなぜか家にあったやつで、すごーく怪しい。でも食べた。
今日は夕日が差すまで外に出ないと決めていたからだ。けれど、毒はどこにも混入していなかったらしい。
そのうちタイムリミットの夕方になったので、おれはしぶしぶ重い腰を上げ、本家に行くことにした。
もう無駄になるかもしれないのに、アパートの鍵だってかけた。
そう、おれは借家アパート住まい。下っ端分家の、貧乏当主なのだ。
本家屋敷は五ブロックも先にあるが、馬車を頼むような金もない。
(いやだなぁ、こわいなぁ)
そう思っているのに、目を閉じたって辿り着ける慣れた道のりを、忠実なこの足はスタスタ歩き、あっという間に到着する。
真っ黒な門柱。怪しげな双子の門番。勝手知ったる大邸宅への入り方。
我が家は血縁ではなく、おもに奴隷身分の子供の購入で一族を増やすので、顔パスなんてものはないし、識別のために入れ墨を入れるなんて、諜報活動の幅を狭めるようなこともしない。
じゃあどうするかって、まず入るやつは拒まない。
そのかわり首輪をつけられる。
文字通りの、硬くて冷たくて青い宝石の光が点滅してきれいと言えなくもない。そんな魔法の首輪。
おとなしくそれを付けたら、名前を言って、屋敷に伝達されて、案内の使用人と中へGo。
「すでに皆様お待ちです」なんって言われちゃって、おれの背骨に氷柱が入れられたみたいに冷えた。
『皆様』ってだァれのこと? 具体的にはどのレベルの人たちィ?
いやはや、そんなん当たり前ですよね。わかってましたとも!
扉が開いた。
話したこともない大物たちの視線を独り占めしたおれは、ビクッとした。
……気が遠くなるほど、そうそうたるメンバーだ。
序列は上から、いち、にい、さん……。四と八と十と十九あたりの分家は、次の跡取り選出が長引いていたり、現場を離れられなかったから不在らしい。
でもそれ以外は、全員そろっている。
半地下にある部屋は、天窓しか光源がない。
ボウル型の円形講堂は、血のような夕日で満たされており、階段にはバラバラに二〇人あまりの怖い大人たちがニヤニヤしながら勢ぞろいしていた。
『悪魔の会合』ってタイトルがつきそうな光景だった。気が遠くなるね。
パァン……パァン……と何の音かと思ったら、序列二の家の『
「やぁ、新当主くんのお出ましだ」
金髪褐色肌の色男。おしゃれなおじさんで有名な『
「ずいぶん遅い出勤じゃアねえの」
鼻で笑いながら言ったのは、序列一位の『
若草色のドレスにエプロン、長いおさげ髪。女性ながら、太くてよく通るいい声をしているので、呟いただけでも存在感がある。
この二人は、仕事柄、年中が王城詰めなので、ほんとうに希少で重要人物だ。服装も豪華で仰々しく、どちらも仕事着のままだった。
「まァ~さか、序列二十位以下から当主が出るとはなア~? 」
序列一位、ということは、前当主の家ということである。
高位の当主は、家族をどれだけ増やしてもいいという特権がある。
この特権を最大限利用し、前当主は血の繋がった子供を増やして周辺を固めた。
前当主は彼女の父。
死んだ『当主候補』は、今の『
いやに楽し気な彼女の様子に、本心が分からなくて怖い。
そんな『
『
「新当主の手腕、期待してるぜェ。花嫁と一緒に、がんばって当家を盛り立ててくれよ、序列一位『
そばかすのある顔がいたずらっぽく笑い、長い黒髪のおさげの先で鼻をこしょこしょされる。髪は石鹸のいい匂いがした。
『
ぽかんとするおれの逆の肩を、こんどは『
(……あれぇ~? )
「あの二人が帰るってんなら」ってかんじで、他の人たちも退室していき、会合はそのまま、さらさらと流れるように自然終了。
おれこと序列二十四位『
――――ところで、花嫁って初耳なんだけども?
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